螺旋が落ちる





※3P、道具、軽い淫語、喘ぎすぎ、その他色々変態くさいので注意。※





























 トルテを作る約束を交わしたのが、数日前。
 オーストリアと同じく菓子作りを趣味とする、甘いお菓子が似合わない外見の男との約束を果たすために彼の家を訪れた。買い込んだ材料を両手に提げて、迷わずにたどり着くという奇跡まで起こして。
 大きな家のチャイムを鳴らす。
「……」
 帰ってくるのは沈黙ばかりで、目の前の機械は無言のまま鎮座している。再びチャイムを鳴らすが、やはり誰も答えない。
 ドイツは約束した日時を忘れたりするような男ではないことを知っているオーストリアの脳裏に、些か不安がよぎる。何か、あったのか、と。
 みたび鳴らしたベルもやはり無言で、焦れたオーストリアは無礼と分かっていながらも同居時代に貰った鍵を使って重厚な扉を押し開いた。玄関はがらんとしており、人の気配は無い。
 誰に言うでもなく断りを入れて、その足を家の中に踏み込ませる。広い廊下にも、そこを通りながら覗き込んだ書斎、リビングにも誰一人としていなかった。
 午後を少し回った、少し寒いけれど穏やかな昼に、家の中が無音という不気味さに自然とオーストリアの表情が曇っていった。

 とりあえず、この荷物を置いてしまおう、と足をキッチンに向ける。やはり誰もいないキッチンに白い袋ごと材料を置いたところで、ふいに背後で物音がした。辺りのものを蹴り散らすような歩き方。
 突如響いた音に驚きながらも、けれどその歩き方で振り返らずとも誰かは分かった。一時期、居をともにした人物だ、分からないはずが無い。
「……なんだよ、坊ちゃん」
「あ、ああ……勝手にお邪魔してすみません。呼んでも返事が無かったものですから」
「んなコト聞いてねえ。何の用だ」
 ひどく不機嫌そうな、低い声音。彼はいつも高らかに笑っているイメージがあるために分かりにくいが、彼の弟とよく似た声をしている。どう転んでも考えを彼に、ドイツに結び付けてしまう自分の頭に辟易した。
 しかし、この無意味に不機嫌そうで乱暴な口調でオーストリアにもその不機嫌が伝染する。理不尽な物言いに、少し苛立ちながらも袋から皮の厚いオレンジを取り出した。
「ドイツと一緒にトルテを焼く約束をしていたのですよ。彼はどこです?」
 砂糖につけられたさくらんぼの瓶詰め。質のいい小麦粉の袋。新鮮な苺。買ってきたばかりのそれらを、次々と袋から出して並べていく。果物を使ったトルテはオーストリアの得意なものであったし、背後にいる男の弟が好んでいるものでもあった。たまに言葉少ないながらも不器用に褒めてくれることが嬉しくてたまらないなど、ドイツには伝わっていないのだろうけれど。
「ああ……そういやヴェストがそんなこと言ってたっけ。てめえもよくやるよな、そんなにヴェストが好きか?」
 ごとん。オーストリアの手にあったみずみずしいオレンジが、鈍い音を立てて床を転がった。
「……プロイセン。あなた、何を」
 何がそんなにおかしいのか、プロイセンは形のいい唇を奇妙な形に歪めてくつくつと押し殺したように笑う。白い歯が、悪魔の牙に見えた。
 いつもふんぞり返って高笑いをする彼とは思えないほど、笑いを堪えるようなポーズで背を丸めて笑っている。赤紫色の瞳が、中央にオーストリアを捉える。寒気がするほどにうつくしい、赤だった。
 冷蔵庫の取っ手に手をかけるプロイセンが視界に入る。ミネラルウォーターのペットボトルを取り出すプロイセンは、ボタンを全て外した状態のシャツを羽織り、ジーンズを適当に引っ掛けただけというひどく乱れた服装であることに気付いた。今まで眠っていたということもなさそうだが、基本的には綺麗好きなこの男が太陽の高く上がっているこの時間にこのような姿をしていることが少し不思議だった。
「坊ちゃんさあ、ヴェストのことが好きなんだろ? もしかして、それで隠してるつもりだったのか? そんなあからさまな態度して気付かれてないとか思ってたんだ、バッカじゃねえの。気付いてねえのはヴェストくらいだっての」
 ペットボトルのキャップをしめて、それを冷蔵庫にしまわず手に持ったままぷらぷらと揺らす。催眠術にでもかけるかのようなその動きに、オーストリアは屈辱を感じずにはいられなかった。
 確かに、好きだ。オーストリアは目の前の男、プロイセンの弟であるドイツを愛していた。厳格で生真面目な性格。それに反して抜けた面もあり、不器用ながら優しさもある。落ち着いているかと思えば突拍子の無いことを言い出したり、やらかしたりする彼。大柄なくせに、そういったところをとても可愛いと思い、深く好いていた。
 それを、知られている。よりによってこの男に。この男が弟を溺愛していることを、オーストリアは知っている。それは、たったひとりの肉親への家族愛、兄弟愛と言い切ってしまうには些か重く、粘着質で、どうしようもなく狂気に近いということも知っている。
「で、好きなんだよな?」
 にやにやと神経を逆撫でするために存在するような表情で笑いながら、プロイセンは黙り込んだままのオーストリアに追い討ちをかける。オーストリアは、半ば自棄のように「そうだとしたら何だと言うんです」と吐き捨てた。
「……いいモン見せてやるよ。ついて来な」
 くる、と背を向け、ペットボトルを適当にテーブルの上に放り投げてプロイセンはキッチンを出た。彼の言うことに従う義理も義務もない。けれど、赤い瞳がどろりと輝いていたことが気になり、オーストリアは黙ってその背中を追った。
 床に落ちたオレンジは、誰にも拾われないままだった。


 カツ、とブーツのかかとを鳴らす。
 長い廊下を歩く間、二人の間には沈黙しかない。いつもげらげらとうるさい高笑いを上げる男と、今オーストリアの目の前を足早に歩く無口な男が同一人物だなんて、と思うほどに、プロイセンは静かだった。それは口数だけの問題ではなく、言うなれば彼の纏う空気そのものが、暗く湿って黙り込んでいるようにすら見えた。
 廊下の突き当たりに、その部屋はあった。
 この家は広く、たまにオーストリアにも把握できていない部屋がある。この部屋はそのうちの一つなのだろう。質素で地味なつくりの、けれど頑丈そうな扉。それをくぐって先に進むプロイセンの背を、オーストリアは再び追う。
 扉の向こうには、飾り気の無い短い通路があるだけで、がらんとした空間が広がっていた。心なしか、先程の廊下よりも薄暗い。そして、なにやら妙な音も聞こえる。
 ひとの、呻き声?
 それもまるで聞き覚えの無い声というわけではなく、どちらかといえば聞きなれている音に聞こえた。聞きなれているはずなのに耳にしっくりこないのは、聞いたことの無いトーンで苦しげな呻き声を作っているからなのだろう。
 まさか。まさか。そればかりがオーストリアの頭をぐるぐると回る。
 短い通路の先にはもう一枚の扉。プロイセンは、やはり無言でその扉に手をかけた。
 オーストリアの頭の中に警鐘が鳴り響く。今からでも遅くない、こんな扉には背を向けてもと来た道を戻りなさい。見てはいけない。聞いてはいけない。
 けれど体は言うことを聞かず、プロイセンが扉をゆっくりと押し開く姿を呆然と見つめていた。


「ッア、あん、……ッふ、ふ、ぁああ! あ、アッ、ん…はァ、あ、あぐっ……!」
 迎えられた部屋を支配するのは、淀んだ空気。木目の見える壁に囲まれた部屋の中は白々しい明かりが灯り、何の仕切りもない部屋の中央には大きめのベッドが偉そうに鎮座していた。
 その上には、白い肌。
 黒いレザーの拘束具に腕を後ろ手に縛られ、膝をついて腰を高く上げてうつ伏せになりながら口からはどろどろに唾液を流している。ほとんど肩と顎で体重を支えているつらそうな体勢のまま、高く上げたそこからは艶かしいピンク色の棒の様な物が見える。腹の中で蠢くものに、どうしても目が行ってしまう。
「は、ぐゥ……う、オスト…うぁ、あふ、……んぁ、あぁっ! っは、はぅ、オ、スト、オストぉ……ひ、ぐっ!」
 オスト、と呼ばれた男はオーストリアを尻目につかつかとベッドに近づき、白いシーツの上に腰掛ける。ひくひくと震えて彼を呼ぶ男の耳元で、囁いてやる。
「ヴェスト」
「は、んっ! んっ、あ、オスト、っ! オストぉ、っあ、はぅ、うあ、あ、あっ、オスト……」
 上がらない顔を必死で上げようとしながら、ヴェストと呼ばれた男、ドイツは懸命にプロイセンを呼び続けた。特別なこの兄弟は、互いを『オスト』『ヴェスト』と呼び合う。それは彼らの間だけに許されたもので、オーストリアが彼らを『オスト』や『ヴェスト』と呼ぶことは出来ても、そこにある意味は限りなくゼロに近い。意味が無いのだ。オーストリアでは意味が無い。彼ら二人だから、この呼び名に意味がある。
 その特別な呼び名が羨ましく、微笑ましくもあったのに。今、彼らが呼び合っている呼び名からは狂気と情欲ばかりを感じる。背筋が、震えた。
「ヴェースト。イッちまった?」
「い、ってない……イッてな、ァんっ! ちゃんと、ぅんっ、ひっ、あ゛ァっ!」
 直腸の蠕動のために半ばほどまで姿の見えていたグロテスクな棒を、プロイセンの指が無慈悲にも押し込んでいく。苦しげに喘ぐドイツの髪に、プロイセンは愛しげにキスをした。
「ん、いい子だなヴェストは。ちゃんと俺の言いつけを守って、我慢してる」
「ひィぁぁっ! はふ、は、はッ、ひぐ、ぅっ……ァ、やめ、それっ…ァは、あ、ぁぁっ!」
 几帳面に撫で付けられていたはずの、けれど今は乱れてばらばらになった金髪を白い手が撫でる。幼子をあやすような動きで右手がドイツの髪を梳かすように撫でながら、利き手ではドイツの腹の中を侵す無愛想な玩具をぐりぐりといじっていた。動きを円滑にするために垂らされた人工的な愛液が、ぐぷぐぷと下品な音で泡立つほどに押し込み、抜き、犯す。
 耳障りな低音で振動するそれを、深くまで突き刺すように押し込む。そのたびにびくんっ、と大きく体をしならせ、ふとももが痙攣した。筋の浮き出た逞しい太ももとふくらはぎが、弱々しく震えるアンバランスさ。オーストリアは己の頭がショートしていくのをどこかで感じていた。
「うぁァっ! あっ、あっ、ああ、っうん! ひ、ィっ……あぐ、ぅっ、あ、もう抜い、それ…アッ、ぬ、抜いて、くれっ!」
「コレ、嫌か?」
「イヤだ、ぁ……いや、もういやだ、んッあ!」
 ぱさぱさと金色の短髪を揺らして駄々を捏ねるように首を振る。己の唾液の染み込んだ白いシーツに額をこすりつけて拒否を示すと、プロイセンがほんの少しだけ申し訳なさそうに眉尻を下げて、ごめん、と呟いた。
「悪いなヴェスト。いま、抜いてやるから」
 その言葉どおり、埋め込まれたどぎついピンク色が抜かれる。ゆっくり、ゆっくり、焦らしていることが明確な動きで、緩慢に中を刺激されてドイツは背筋を引き攣らせて喘いだ。
 浅いところ、ふちの辺りでわざと小さく抜き差しを繰り返す。ぐち、ぐち、と浅く前後させたそれが、どこかを掠めたのだろう。かたく目を瞑って体中を襲う愉悦に耐えていた目が、見開かれた。あおい目に溜まった涙は、今にも零れ落ちそうだった。
「ひ、ぃぁぁッ! あッん、んくうぅっ、はぐ、あ、あんっ!」
「あは……でっけえ声。うるせえなあヴェスト」
「ソコ、そこ、擦るッな……ァ! はぅ、う、ッあ……なか、気持ちい、ィ、だめだ、アッ、あ、いくっ」
 つま先が白いシーツを蹴って乱す。きつくしなるつま先が、ドイツのからだの限界を訴えているように見えた。ごくりと飲み込んだ唾が、酷く苦い。
 引き攣れた悲鳴が、不意に途切れた。プロイセンの手の中でグロテスクなピンク色が激しく振動している。ドイツの腹の中で蠢いていた凶器が引き抜かれ、ドイツは決定的な刺激を与えられずに放り出されたためにシーツの上でひくひくと震えていた。
「ァあ……オスト、なんっ……あっ、なんで…」
「何で? 妙なことを言うな、ヴェストは。おまえが抜いてくれって言うから抜いたんだぜ」
 にやにやと人の悪そうな笑みを口元に貼り付けて、プロイセンはドイツの目尻を親指で拭う。従順に目を閉じ、プロイセンの親指にまぶた越しの柔らかい眼球を押されていた。その鈍い痛みの中にすら快感を見出しているのか、ん、と短く淡い色の吐息を零した。
 だらしなく涎を垂らしながら半開きになっている唇が、何度も『オスト』と動くのがオーストリアにもはっきりと見えた。
「い、いかせ……」
「んー?」
 姿勢を低くして、頬をシーツにこすりつけるドイツに耳を寄せる。聞こえないふりがわざとだということはこの場にいる全ての者が分かっていたが、ドイツはそれに反抗も反論もせず、羞恥に打ち震えながらも自らを追い込むように卑猥な言葉を口にした。
 理性の箍は、壊れかけていた。
「いかせて、いかせてくれ……っ、ぁ、あ、もう、いきたいっ、…おれ、のなか、なかをいっぱい擦って……ァんっ、ぐ、ぐちゃぐちゃに掻き回して、っ、俺のきたないペニス……っ、から、白いの、精液っ……出させてくれ、ぇっ!」
「っは、はははははははは!! おいヴェスト、よくそんなはしたないことが言えるな。恥ずかしくないのか?」
 不安定なバランスで保たれていたドイツの体、腰の辺りを軽く押すとドイツは白いシーツの上にその裸体を投げ出した。背中で拘束された腕が、もぞもぞと滑稽な動きをしている。プロイセンはドイツの短い前髪を乱暴に掴み、無理矢理ドイツの喉を反り返らせてその鼻に噛み付いた。
 高笑いと共に投げられた羞恥ばかりを煽る言葉にすら何を見出したのか、ドイツはふるりと体をよじらせた。
「は、……っ、恥ずかし、い」
「そうだよなあ。でもヴェストは恥ずかしいのにも感じちまうんだろ?」
 言葉を詰まらせ、ドイツは視線を彷徨わせる。けれどその視線がオーストリアを捉えることはなく、やはりまだ気付かれていないのかと思うと彼は呆然とその光景を見守る以外の選択肢を見出せずにいた。
 彷徨わせている視線を掴んで手繰り寄せるように、プロイセンはドイツの首に手をかけて親指と人差し指で無理矢理上を向かせた。
「おまえのこんな姿を見て、どう思うかなあ。なあ、『お下品』が大嫌いなお坊ちゃん?」
 体を少しずらして、ドイツの顔を強制的にオーストリアのほうへ向かせた。あおい瞳が、驚愕に見開かれる。
「ヒッ……い、いあぁ! みるな、見るなァっ!」
 たった今、オーストリアがこの狂った部屋の中にいたことに気付いた目。今の今まで、プロイセンがドイツの顔を無理矢理オーストリアにむけるまで、彼の存在に気付かなかったということになぜかオーストリアの心は怒りを覚えていた。
 目の前の男しか、ドイツには見えていなかったという事実にどうしようもなく腹が立った。ふらり、と足が動く。
「見てみろよヴェスト。お坊ちゃんのあの顔、おまえのこと軽蔑してるぜ」
 不意にプロイセンの狂気を孕んだ赤紫色の瞳が、オーストリアを捉えた。奇妙な、笑みともとれる形に唇を歪めた表情は、オーストリアの記憶には無いものだった。
「なあ、オーストリア。これがおまえの愛した男の姿だ。おまえとの約束なんかすっかり忘れて、兄貴にこんなモノ突っ込まれてあんあん喘ぐようなどうしようもない淫乱で変態なんだよ」
 ああ、勝ち誇って笑っているのだ。オーストリアは、ようやくそのことに気付いた。
 プロイセンのこの奇妙な表情は紛れもなく笑顔で、けれど常人が想像する笑顔とはかけ離れた表情なのだ。自分の弟に惚れている男に、その弟のこんな淫らな姿を見せて自分の所有権を主張して笑っている、螺子の外れた子供のような笑顔。
「おい」
 ぱしんっ、と軽い音、それから弾かれてがくりと揺れる己の手。
「まさか……触れようとしたのか? 俺のヴェストに、俺の許可なく?」
 そのとき、はじめてオーストリアは自分がドイツに手を伸ばしていたことに気付き、愕然とした。自分がここまで浅ましい男だなんて、思っていなかった。
 けれど、想像したことがないと言ったら嘘になる。自分の手で、あの大柄な体を撫で回し、ピアノを奏でるこの指で彼に濡れた声を紡がせられたら、と。そんなくだらない、決して実現するはずの無い妄想を抱いたことだって一度や二度ではない。
 しかし今ここに、己の手によってでは無いとはいえ、くだらない妄想の中で何度も描いたような姿で、愛した男が目尻を涙で濡らしてベッドの上に横たわっている。
 触れたい、と強く思った。
「私、は……」
「っはは、傑作だ! おまえの愛した男は、俺のことが好きで好きでたまらないんだぜ。こんな色情狂みたいな台詞も格好も出来るほどに深く俺を愛している男を、おまえは愛したんだ。こいつのこんな姿を見ても、それでも尚おまえは俺のモノを愛するのか。はははははは! 滑稽にもほどがある、ああ最高だ、笑えるじゃねえか!」
 ドイツの顎をつかんでいた手を放し、プロイセンはその手で己の目元を覆い、腹を抱えて笑い始めた。
「いいぜ、触れよ。決して、絶対に、何があっても、おまえのものにはならない俺の大切なヴェストの体だ。今だけ触れることを許してやる」
 悪魔のような囁きに、先程叩き落とされたオーストリアの手が再び持ち上がる。躊躇いがちに伸ばした手は、プロイセンの傷だらけの手に取られた。力任せに引っ張られ、ベッドの上にいる二人に比べれば細いオーストリアの体が、この中で一番逞しい体に覆いかぶさった。
 汗でしっとりと濡れた肌に、オーストリアの手が触れる。厚い肉を纏った体は、快楽のにおいを色濃く放っていた。
 プロイセンはベッドのふちに腰掛けたままブーツを脱ぎ、膝を擦るようにしてベッドの上を移動する。キスをしても閉じられることの無いドイツの視線は、やはりその音を追っていた。
 オーストリアもブーツを脱いでベッドに上がった。フリルタイを自分で解き、シャツのボタンを二つほど外すと再びドイツに覆いかぶさる。厚みのある体を覆うのはオーストリアの薄い体では難しかったので、オーストリアはドイツを仰向けにさせてその上に馬乗りに跨った。自分とオーストリアの体重が、背中のほうで拘束されたドイツの腕を苛む。拘束具の小さな金具が、ドイツの腕と背中に食い込んでいるようだった。
 腕のぶん、少し反って突き出された胸に歯を立てた。
「は、ァッ! あ、あっ、いた、痛いっ……いやだ、ァっ…噛む、っなあ……ぅん゛っ……!」
「おい坊ちゃん、俺のヴェストをあんまり苛めんなよ」
「お黙りなさい。あなたが触れろと仰ったんです……私の好きに触れさせていただきますよ」
 もう、感情などどうでもよかった。オーストリアの体にまとわりつく、不快な情欲を愛しい男にぶつけることができれば、それでよかった。
 これでは、プロイセンを螺子の外れた子供などとばかに出来ない、と内心はおかしくてたまらなかった。どこか、オーストリアの中で金属の抜け落ちる音がした。螺旋の金属が、拾われないまま足元を転がっていくような気がした。


「ァんっ! ん、は、っは、ぁあ……」
 黒い拘束具を外してやると、皮膚が僅かに赤く腫れていた。安っぽいレザーの拘束具を床に放り投げる。自由になった腕は、案の定プロイセンを探してシーツの上を彷徨っていた。短い爪が、がりがりとシーツを引っ掻く。その指先に、プロイセンが小さくキスを落とした。それだけで幸せそうに甘い声を出す愛しい男が、オーストリアには憎く感じられた。
 性感帯を探すように、同じく短く切り揃えた爪でドイツの皮膚をなぞる。脇腹に爪を立てると、びくん、とドイツの体が揺れた。
「は、ンっ……」
「ここ、気持ちいいんですか?」
「……ッ、う」
「ちげえよ。ヴェストはここと……ここ、それにここも好きだよな」
 オーストリアの触れていた箇所より、ほんの僅かずれたところ。脇腹というよりもあばらの上のあたりの筋肉にプロイセンが爪を立てると、オーストリアが触れたときよりもずっと気持ち良さそうにドイツが目を細めた。いらいらする。
 立て続けにプロイセンがドイツの性感帯を長めの爪で引っ掻く。へその下、あばらの上、首の付け根。その辺りをプロイセンが引っ掻いてやると、ドイツは目尻に涙を溜めてひくひくと震えた。
「あと……ここ、だろ?」
 長い指が、乱暴にドイツの屹立する性器を扱く。粘着性の高い淫靡な音を立てて上下させ、先端にやはりその長めの、それでも几帳面に切り揃えられている爪を立てた。
「ァっう! っは、はぁ、いく、だめだ……も、いく、っぅ」
「ダメだっての」
 先端を爪の先で弾き、ぱっと手を離す。熱を放出しようとしていた体が中途半端に投げ出され、小さく痙攣しながら物欲しげにオスト、と呟いた。
 プロイセンは心底楽しそうに笑いながら、触れては離しを繰り返す。その都度、ドイツは甘い声でひくひく震えながらプロイセンを求めてそれが受け入れられないことに絶望しながら痛いほどの快楽に耐えているようだった。その絶望さえ、彼には甘美な痛みに感じられているのだろうか。
 それを面白くなさそうに眺めていたオーストリアに気付いたプロイセンが、唇の片側だけを器用に歪めた。
 先程ドイツのなかを好き勝手に犯していた、卑猥で安っぽい玩具がぽいと投げ落とされる。
「それ、ヴェストん中に突っ込んでやれよ」
 ひ、と喉を鳴らしたのはドイツだ。いやだ、と音無く唇を動かすドイツの、薄く朱色に染まった頬にプロイセンが口付ける。残酷な言葉を紡ぐ唇で。
「俺がいいって言うまでイくなよ」
 死刑宣告を受けた囚人の唇が、僅かに笑みの形に歪んだ。期待するような眼差しに見えたのは、錯覚だろうか。


「ッ、っん……ん゛ぅッ……は、ふっ、う、うぐっ、んっ……!」
 たわんだシーツを噛み締め、布に悲鳴を吸い取らせる。なにも纏わない体が、ほとんど肌を露出していないオーストリアの手によって愉悦を与えられて跳ねる。それを、シャツとズボンをひっかけただけのプロイセンがにやにやと見守る。奇妙な空間だった。
 再びうつ伏せにされたドイツを、オーストリアの手の中で不快な振動を繰り返すピンク色が犯す。羽虫がまとわりつくような音が本当に不快で、オーストリアは眉根を寄せ、けれどそれを躊躇い無くドイツの腹の奥まで埋め込んだ。
「ァん゛ぅっ! っは、あ、あぐ……っむ、ァ、むり、だ……は、ァっん!」
「無理じゃねえだろ。……ほらヴェスト、俺以外の男にこんなモン突っ込まれて気持ちいいなんて、まるで淫乱だな」
 ドイツの肌にギリギリ触れない距離に声を寄せ、熱っぽい吐息とともに名前を呼ぶ。そのプロイセンの吐き出す息にまで、ドイツは身をすくませた。
「あなたも大概悪趣味ですね」
「ふん……うるせえよ、変態貴族。俺のヴェストの尻にこんなグロいもん突っ込んで、ヴェストがこんなうるさくあんあん喘いでるの見て、聞いて、きったねえモン勃たせてるド変態に言われたくねえな」
 いやらしい笑みで、プロイセンがオーストリアの足の間に視線をやる。ズボンを押し上げているものを嘲笑いながら、その手のひらが乱暴にそれを掴んだ。布越しに、痛いほどに擦り上げてくるその手に快感を与えられるという屈辱。けれど、プロイセンの言うとおりドイツの姿を見て、ドイツの甘く鳴く声を聞いて、今までに無いほど興奮していたことは事実だった。
「ァんっ! っは、こ、こら……おやめなさい、っ! ァ、うっ……、や、ァッ!」
「安心しろよ、頼まれたってイかせてなんかやんねえから。おまえは精々、あとでヴェストの裸でも思い出して抜いてな」
 耳障りな高笑いと共に、手が離される。勝手に高められた快楽に屈服しまいと、オーストリアは奥歯を噛み締めた。睨むようにその赤紫色を捉えたとき、オーストリアは愕然とした。ひかりが無い。どろりと濁った、欲望と狂気を孕んだ色が、そこにあった。
 今さらながら、この男の狂気に背筋が凍った。
「ほら坊ちゃん、手が止まってるぜ。ヴェストが可哀想だろ。ちゃんと気持ちよくしてやれよ」
 ぎらぎらと醜く淀んだ声だった。オーストリアはその声に逆らうことが出来ず、そして同時の己の欲望にも打ち勝つことが出来ず、未だ不愉快な振動を続ける玩具をぐちぐちと動かし始めた。
 一番深くまで押し込み、抜け落ちるギリギリまで引き上げる。半分くらいを埋め込んだ状態で円を描くようにぐるりと回してやると、体のなかを抉られる痛みと強烈な快楽に、ドイツは声を出すことすら忘れて喉を引き攣らせた。
 先程から、掠めるたびにいちいち大きな反応を示す場所があることに気付いていながら、オーストリアは敢えてそれに触れずにいた。彼もまた、螺子の抜け落ちた男のうちのひとり。ドイツの懇願する声が聞きたいと、暗い願望の萌芽に逆らえなかった。
「っは、は、アぁっ、ァん……あ、ひィっ! あふ、っぐ、っは……そ、そこっ……!」
「そこ……とは、どこです?」
「……ぅあ、ッ! は、オーストリ、ア……っひ、ィあ……」
「仰ってくださらないと分かりませんよ」
 ゆったりと微笑むことが出来たことに、オーストリア自身が一番驚いた。
「はははは! なんだよ坊ちゃん、結局てめえもノリノリじゃねえか」
「お黙りなさい」
 罪悪感が無いといえば嘘になる。けれど、そんなこともうどうでもよかった。
 所詮、理性の箍など落としてしまった男だ。本当は今すぐにでも服を脱ぎ捨ててこんな陳腐な玩具を引き抜き、己自身でドイツを犯したい。この分厚い筋肉に覆われた、自分よりも大柄な男が泣いて許しを請うほどに犯して精液を彼の腹の中に注ぎ込んでやりたい。
 それをしないのは、もうひとりの男の存在ゆえ。
 ドイツの体をオーストリアの手で乱れさせることを許しておきながら、けれどオーストリアがドイツの体に触れようとすると心臓を鷲掴みにするような殺意の籠もった視線で射抜いてくる。厄介な男だ。ならば最初から弟の体をオーストリアに明け渡したりしなければ良いのに、と思わないことも無いが、この状況から脱する必要性を特に感じない(この辺り、自分でも狂ってしまったのだろうと思う)ので何も言わないでおいた。
 妄想でしか見られないような光景を、状況を、手放す理由などなかった。
「ほら……気持ちいいですかドイツ」
「ぅア! っひ、はァ……うん゛っ、んぐ、はァ……」
 また、そこを掠める。びくんっ、と跳ねる体を笑いながら、オーストリアはグロテスクなピンク色を浅く抜き差しした。
「でもあなたなら、もっと気持ちいいところがあるのをご存知なんでしょう?」
「ひ、うっ……! あ、ア゛ぁっ! そ、そこ……っ、そこ、いやだ、ァっ! あ、あっ、イく、だめだ……だめ、擦られっ、たら……イく、ぅ!」
 それまでシーツをがりがりと引っかいていたドイツの指が、慌てたように己の性器の根本を掴む。せき止めるような行為に、ああ、とオーストリアは溜息をついた。
 愚直なまでに、兄の命令を守っている弟の滑稽なほどの服従が、オーストリアを苛立たせた。なかを抉る手つきが、些か乱暴になっていく。
「は、ぐぅッ、んっ、ん゛ーっ……! は、ァ、だめだ、こ、擦るっ、なァ……あァ、もっと奥、ぅ…んっ、い、イく、いやだぁ……っ!」
 ねだっているのか拒否しているのか、もうドイツ本人にも分かっていないのだろう。
 兄の命令に背かぬよう根本をせき止めながら、けれどもう一方の手で擦り上げる。矛盾した行動をとりながらシーツに額を押し付けて耐えるドイツを、プロイセンはやはり酷く可笑しい見世物でも見るような姿勢で見守っていた。
「ヴェスト、イきたい?」
「い、いきたい、イかせ、てくれ……」
「こんなくだらないオモチャでイくのか?」
「い、いやだ、ァ……! オストの……は、ぅっ…ァん、かたいの、勃起したおまえのペニスを突っ込んでくれ、っ!」
 時折バイブを揺らし、ドイツの台詞を故意に途切れさせてやる。けれどオーストリアのささやかな攻撃もドイツはただの快楽に変換してしまい、それを分かっているプロイセンは勝ち誇ったようなひどく嫌味ったらしい笑みでオーストリアをちらりと視界の端に捉えた。その視線もすぐにドイツに戻し、もうほとんど汗やその他の要因でぱらぱらと降りている彼の前髪を掴んだ。
「どこに突っ込んで欲しいんだ。くち? それとも――」
「ッは、んあァ、俺の、こ、こんな……こんなもので掻き回され、てる、ッん、……ひィあアァっ! あ、ッ…あな、に、穴に突っ込んでっ……、おく、をたくさん擦って…犯してっ、イかせてくれ……ぇ、っ!」
「ああ、下品だなァ、ヴェスト! オーストリアがひでえ顔してるぜ。愛した男がこんな『お下品』でさぞ落胆してるんだろうよ。ほら見えるかヴェスト。今おまえの中を安っぽい玩具で犯してるのはあいつだ。こんなオモチャじゃなくて、あいつに犯してもらうか?」
 ドイツの首は、躊躇いなく横に振られる。分かっていたことなのに、ひどく落胆している自分がいることに気付いてオーストリアは自己嫌悪に陥った。乱れた金色の髪がシーツを叩く。引き締まった逞しい腕は、彼の兄にのみ差し伸べられていた。
 勝ち誇った笑み。愛した男の兄は、やはり螺子の飛んだ子供のようなある意味無邪気ともとれる高笑いを上げる。オーストリアの手が玩具を押し込むことをやめた。手を離し手の中に残る不快な振動の名残すら憎い。
「いや、だ……オスト、オスト、ぉ…オストがいい、オストじゃないとだめだ……オストが欲しい、俺の、っ、俺だけのにいさん……」
 薄々気付いていたことだったが、やはりオーストリアの目に映る兄弟はふたりともどこかおかしくなっていた。プロイセンは今さら確認するまでも無い。けれどドイツは兄の行為を受け入れてるだけなのかもしれないと、くだらない希望めいたことを考えた。
 そんな考えを抱いた甘い自分に、反吐が出る。オーストリアらしからぬ乱暴な感想を抱くほどに、ドイツのきれいに澄んでいたはずのあおい瞳もどろりと濁っていた。その濁った瞳がとらえ続けるのは、プロイセンただひとり。
 プロイセンの勝ち誇った高笑いが、耳障りだった。


「ァうんっ、んっ、あ、ァっ! は、はいってる、オストが、……おれのなか、ぁ、うっ!」
 ベッドの端に追いやられたオーストリアにドイツの快楽に歪む顔を見せ付けるように、四つん這いになったドイツをプロイセンが後ろから犯していく。
 白くしなる指先がシーツをぐしゃぐしゃに引っかいて乱し、兄以外何も見えていない瞳はぼろぼろと涙を流していた。痛みや圧迫感、与えられる苦痛の全てを快楽と思い込んでいるかのような、恍惚とした表情にオーストリアは唇を噛み締めた。
 ずぐずぐと腰を襲う、鈍い熱が疎ましい。
「ッ、は……あは、はははっ、坊ちゃんほんと……変態じゃねえの。ヴェストが俺に犯されてんの見て、っ、んァ、すっげー興奮してやがる」
 ドイツの太くがっしりとした腰を掴み、そこに爪を立てて痕をつけながら切れ切れに笑う。そんなプロイセンに指摘されたとおり、オーストリアは先程ドイツを玩具で攻め立てていたときと同様、もしかしたらそれ以上に、ひどく昂っていた。
 愛した男が、目の前で淫猥な言葉を喚き散らしながら腹の中をかき回されている。しかも、ほんの僅か、愛しげな笑みまで浮かべて。
 淫売じみた表情や、ことば、この狂った空間全てに惑わされていた。
「おい、オーストリア。勝手に抜いてろよ……俺の可愛い可愛いヴェストをオカズに、そこでオナニーしてみせろって言ってんだよ。ほら、本物が目の前にいるんだぜ?」
「で、……できませ、んっ」
「ハッ、お貴族様はプライドが高くていらっしゃる。理性なんてくっだらねえモン、もう捨てたと思ってたけどな。……おいヴェスト」
 ドイツの背中にぴったりと胸と腹をつけるようにして、プロイセンはその唇をドイツの耳元に寄せる。腰を深くまで押し進めるような体勢に、ドイツが短く悲鳴を上げた。
 オーストリアには聞き取れないほどの音量で何かを囁かれたドイツは、聞き返すように無言で背後に振り返る。けれどプロイセンは、ほら、と促すだけで取り消そうとはしなかった。頑なな兄の態度に、ドイツはおずおずとオーストリアに視線を合わせた。相変わらず、瞳はあおく濁っている。
 躊躇に震えながら、口を開いた。
「……っ、み、みて…くれ。オーストリア、っ……ハ、ァん…オーストリアっ! に、にいさんに…っう、ふぁ、あ、あっ……俺が兄さんに、オストに突っ込まれて……お、犯されて気持ちよく、っ、なってる…とこ、ろ……ぁう、う゛ーっ、あ、ふっ、見て、見てくれ、ぇっ!」
 おそろしく淫靡な赤い口が、途切れがちに言葉を紡ぐ。紡がれた言葉は糸となり、オーストリアの手を絡め取った。プロイセンの喉で押しつぶした不恰好な笑い声と、ドイツの低いくせに甘ったるい喘ぎ声に促されるまま、絡め取られた手が自分のズボンをくつろげていく。
「ドイツ、っ……!」
 この歪んだ空間で、初めて彼の名を口にした。呼ばれた本人はそんなことは気にも留めず、命令を下した主からの褒美のような愛撫に身を震わせていた。
 膝立ちになり、くつろげたところから既にがちがちに硬くなっているものを引き出す。見ていただけ、聞いていただけでこんなになってしまう己の体の浅ましさに嫌気が差す。
 色の濃い陰毛を指で掻き分け、根本から少しきつめに擦り上げる。ぞくぞくと背筋を甘美なしびれが走り、すぐにでも吐き出してしまいそうだった。本当に、浅ましくていやらしくて涙が出そうだ。
「ァうんっ、う、あ、ひィっ……っは、ぃあ、あ、ああァっ! い、いきた……もう、ほんとう、に…っこ、こわぇ……壊れ、るっう……! いかせてっ、くれ……」
「だめ。俺、まだイかねえもん。……っ、んっ、もーちょい……我慢しろ、よ。な? いい子だから……ァん、ぅ」
 耳を犯すふたりの低い吐息交じりの喘ぎ声が、オーストリアの吐息をも荒げさせる。先端からあふれる透明な体液に指を汚し、今の自分はさぞ惨めったらしい姿なのだろうと思いながらも指を、熱を止めることは出来なかった。
「ハ、ッ……坊ちゃん、特別だ。てめえのきたねえ精液で、俺の大切なヴェストの顔を汚していいぜ」
 逆らう理由など、なかった。
 ベッドの上をゆっくりと移動し、身を少し屈ませて、赤黒くそそりたつそれを長い指で扱く。耳を塞ぎたくなるほどに下品な水音をたてているのが己の指なのだと思うと、羞恥で沸騰しそうだった。けれど、ドイツが、オーストリアの愛した逞しくいやらしい男が、目の前につきつけられたそれから絶望したように顔を逸らす表情に、さらに興奮した。
 後ろからプロイセンの手が伸び、ドイツの短い前髪を乱暴に鷲掴みにした。そのまま後ろに引っ張り、ドイツの喉は白く反り返って無理矢理顔を上げさせられる。それでも尚顔を逸らそうとするドイツに焦れたのか、それともだたの加虐心からか、プロイセンの指がドイツの臀部の肉をきつく抓り上げる姿が目に入った。
「いあァァッ! いっ、いた……っ、いやだ、ァ…オスト、やめっ、やめろ……ぉっ!」
 しかしプロイセンはそれに答えず、眉根をぎゅっと寄せてドイツを揺さぶる律動を激しくしていく。もう限界が近いのかもしれない。
 オーストリアも自身を擦り上げるスピードが上がり、解放が近いことを知る。
「ドイツ……ドイツ、あなたのかお、……あっ、あ、アん…顔に、わたしの……っ」
「ひっ、ィ……いや、いやだぁっ! か、かけるな、そんなっ、……アっ、あ、ひァッ、かけないでくれ、ぇッ!」
「……っ、うァ!」
「ひぅ……う゛ーっ……んっ!」
 ぎゅっとかたく目を瞑り、唇を真一文字に閉ざしたドイツの顔に、びちゃりと汚い音を立ててオーストリアの精液が飛ばされた。半透明に濁っているそれを顔面に受けたドイツに満足したのか、プロイセンはドイツの髪を掴んでいた手をようやく離した。
 ドイツの広い背中に、がりがりと爪痕を残して手を戻す。しばらく置いて蚯蚓腫れのように浮き上がる赤に恍惚とした表情を見せる男は、やはりおかしい。
 熱を吐き出して冷静になったはずの頭が、尚熱を求めてドイツから視線を外せずにいた。
 ドイツの声が、一段とオクターブを上げる。聞き取ることすら拒否したくなるような、卑猥で猥雑な言葉がぼろぼろと彼の唇から零れ落ちていく。日の光を浴びていた彼ならば絶対に口に出来ないような、下品な言葉。
 そんな言葉にすら興奮してしまう彼自身の、彼の背後の男の、そしてオーストリア自身の、なんとふしだらなことか。
「あぅ、っん……ひ、ぐゥ…あ、ァ、あっ、あ、あアッ、らめ……あぅ、ら、らめ、ぇ……いく、だめ、もういきたい、いく、いく、ッうぅ!」
「ああ、っ、いいぜ、……ァんっ、んっ…ヴェスト、イッちまえよ、ここ、ほら……このびくびくしてるきたねえところから、ザーメンぶちまけちまえよ…ッ!」
 引き攣れたような声を上げて、ドイツはプロイセンの許しを得るとすぐに肩と足とを痙攣させて吐き出した。オーストリアの精液で汚れた顔を恍惚に歪め、大口で喘いだためにオーストリアの精液が口の中に流れ込むことも厭わず。
 少し遅れて、プロイセンの律動も緩慢になり、背中を震わせてドイツに腰を押し付けた。引き抜いた場所から、ぐぷ、と白いものが流れていく。
 ドイツはそのままベッドの上にうつ伏せに倒れこむと、汚れた顔をシーツにつけた。閉じられたまぶたは開かないまま、気絶するように眠りに落ちようとしている。それを、プロイセンの手が引きずり上げた。
 ぱしんっ、と容赦なく空気を切りドイツの頬を打ち付ける。それを二度、三度と繰り返すと痛みに呻きながらドイツが意識を取り戻す。
「トんでんじゃねえよ。ここ、空っぽにするまで気絶なんかさせてやんねえからな」
 萎えた性器に下がる陰嚢を、乱暴に弾く。痛みに開いた目からは、涙とオーストリアの精液の入り混じった液体がぼろりと落ちた。
 不意にオーストリアが振り返ると、先程入ってきた扉が開いたままであったことに気付いた。ひゅう、と風が入り込み、開け放たれたままだった扉が蝶番を軋ませて、閉じた。












end.
















































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 みなさんHE!N!TA!I!ですみません。
 好き勝手やりました。反省は少しだけしている。






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