カントへの懺悔




 ソファーで読書中の俺の目の前に、突如影ができる。なんだ、と見上げるまでもなくそれは俺の愛しい弟で、俺は特に顔も上げずに少しソファーをずれた。ヴェストが座れる場所を作ってやる辺り、俺はなんて優しいお兄様なのだろう。
 しかししばらくしても一向に座ろうとせず、かといって俺の前から立ち去るわけでもないヴェストを不審に思い、俺はふと顔を上げた。ヴェストの瞳は、なぜかやや赤みを帯びて潤んでいた。
「に、ぃさ……兄さん、っ」
 べろり、と温かい舌が首筋を這う。心なしか呼吸も荒く、俺の首元ですんすんと鼻を鳴らす弟の髪をぐっと引っ張った。
「ぅあ、おまえ何してんだよ」
「あ……その、すまん」
 引き剥がしたばかりの大きな体を俺に覆いかぶせ、喉仏のあたりを舐められた。犬みたいにべろべろと首を舐め、もっと深くに顔をうずめる。耳の裏やこめかみの辺りに鼻をすり寄せてくるヴェストは、正直何がしたいのかさっぱり分からない。
 もう好きにしろよ、と放り出して弟の動向を見守ることに決めた。広くて逞しい背中をぽんぽんと何度か軽く叩いてやると、ヴェストは嬉しそうにまた鼻を鳴らした。マジ、犬みてえ。
「なにおまえ、におい嗅いでんの? 今日は結構動いたし、汗臭いだろ」
「にいさんの……兄さんのにおい、すきなんだ。汗のにおいも、好きで……っは、ぁ」
 悦を含んだ言葉が俺の耳元でささやかれる。うあーいい声してんなあ。
 うっとりと呟き、鼻から吸い込んだ空気を口から深く吐き出すヴェストに、俺は溜息をついた。変態め。
 そうして俺のにおいを嗅いでいるヴェストは、とうとう俺の髪にまで欲情したらしく、ざり、と音を立てて俺の髪を舌で撫でてきた。こめかみ辺りの地肌に唾液を塗りこめるようにして舌を這わせ、髪をぱくりと口に含んでねぶる。はあはあと荒いリズムの吐息がこめかみに触れ、なんだかくすぐったかった。
「っあ、あ゛ぁっ……にいさ、っ、…はぁっ、にいさん……!」
「おーい、兄さん置いてけぼりなんだけど。なにひとりで喘いでんだテメェ」
「あ、っ……すまない、その…っ」
 ソファーの上でべったりと体を密着させて俺を押し倒していた俺の可愛い弟は、慌てて体を起して離れようとする。その胸倉をつかみ、明らかに欲情している弟のあおい瞳をのぞきこんだ。あー、手遅れだコレは。
「何に興奮した?」
 唇が触れそうで、絶対に触れない位置で問いかけてやった。ヴェストはしばらく視線を彷徨わせ、唇を開いて言葉にしようとしては失敗するのかまた閉じてしまう。
 ん? と促してやると、おずおずと唾液に濡れた唇が開かれた。
「ぁ……っ、その、あ、あせに…」
「汗ぇ?」
「さっき、汗をかいたと言っていただろう? ……っその、汗のにじんだ首、とか…汗でベタついた感じの髪とか……に、っ」
「ムラムラしたと?」
「……Ja.」
 恥じらって顔を真っ赤に染めて俯いてしまったヴェストは非常に可愛いんだが、さて、どうしてくれようか。
 すまない、と小さく呟くようにして謝ってくる我が愛しの弟に、ちょっとした嗜虐心がむくむくと頭をもたげてくる。ああ可愛い。俺の汗やら髪やらに欲情してしまうような変態でも、やっぱりヴェストは可愛い。っていうかむしろそこが可愛い。
 俺は口の端をついと上げ、胸倉をつかんでいた手をぱっと放す。
「おまえ、俺の髪が好きなのか?」
「すき、だ。昔から変わらない、美しい銀髪が……とても、好きなんだ」
「うっかり欲情しちまうくらい?」
「う゛……っ」
 ばつの悪そうな顔で視線をそらすヴェストの額に口付け、俺は自分の髪に自らの人差指をくるりと絡めた。うんまあ、俺様はいついかなるとき、どんな部位においても美しいしかっこいいんだけどな。
 ライトを受けて白々しく光る銀髪。色素の薄さもここまで来るとげんなりするもんだが、まあ、最愛の人がこれを気に入っているというのならば悪い気はしない。
 ふと浮かんだ考えに、俺は唇の端を吊り上げた。
「こすってやろうか、コレで」
「……は、っ?」
 ワンテンポずれての素っ頓狂な声に、思わず笑いが漏れる。間抜けに口を開け俺が指先でくるくるといじっている髪を凝視するヴェストは、俺の意図するところをなんとなくわかっているんだろう。
「だぁから、俺の髪舐めてただけでガチガチにしてやがるこのはしたないちんこを髪コキしてやろうかって言ってんの。まあ俺の髪はそんなに長くねえからやりにくいと思うけどな」
 あと、俺の髪にぶっかけたらテメェの汚いザーメンはちゃんと自分で舐めて綺麗にしろよ。好きなんだろ? 俺の髪舐めるの。お兄様の美しい御髪で擦っていただける上に、いくらでも舐めていいっつってんだぜ。
 ヴェストの頬に手を添え、俺はにっこりと笑った。
「さ、どうする?」
 ふるえる唇が、歓喜するようにいびつな笑みの形を作ったのを見逃す俺ではない。



「ぁんっ、あ、あ゛ぁっ……っは、にいさん、兄さんっ」
 ソファーに座って先程中断させられた読書を再開する俺の横に立ち、ヴェストは一心不乱に俺の髪にそれを擦りつける。鼻をつく雄のにおい。
 性器に髪を絡めて前後させているために、髪を引っ張られたり先端が頭に当たったりして視界が揺れ、どうも読書に集中できない。書庫から引っ張り出してきた本で内容もほぼ覚えているから別に差支えはないから、別に止めようとも思わなかった。分厚い本の著者はカント。ああ、あの時計みたいにクソ真面目で規則正しい男か。
「は、っん……あぁっ、兄さんの髪、やわらかくて…っあ、あぁぁっ、だめだ、兄さん……にいさんっ、もう、」
 限界を訴える弟の声に、俺は呼んでいた本を閉じた。ただでさえ傷んでいる昔の本を精液で汚されてはかなわない。
「早いんだよ変態」
 本を近くのテーブルに投げ出し、俺は右手でヴェストの性器の根元をせき止めるように握ってやる。ひっ、と細い悲鳴を上げるヴェストにお構いなしに、握った右手はそのまま、今度は左手で幹を擦り上げてやった。
 ヴェストのカウパー液でベタつく髪を絡めてやり、一緒に擦る。
「ひぃ゛…ッ! あ、ああっ、にいさんっ…あ゛ぁあぁっ、や、いかせて、いかせてくれっ!」
「だぁめ。おら、お兄様の美しい髪に擦られてんだぜ、もっと楽しめよ。気持ちいいか?」
「きもち、い゛ッ、にいさんの…ッ、兄さんのきれいな銀髪に゛ぃっ……こ、こすられて、っひあ゛ぁぁっ、あっん、きもちい゛、ぃっ!」
 ぐちゅぐちゅと耳の近くで淫らな音が弾ける。ふと視線を落とすと、ヴェストのひざは面白いくらいにがくがくと震えて今にも崩れ落ちそうだった。
 この角度からではヴェストの顔を見るのは少々首が痛いが、それでもちらりとそちらに目線をやると、はあはあと息を荒くして目元に涙を浮かべ、快楽におぼれるヴェストの表情があった。ヴェストの視線はひたすら俺の髪に注がれており、口元はゆるく開いて唇の端からは唾液がひとすじ流れていた。だらしねえ顔。
「おい、人の髪にちんこ擦り付けてアヘ顔晒してんじゃねえよ」
「ひあ゛ぁっ、ごめ、っ、ごめんなひゃ……あ゛うぅっ、っん、あ、あン゛っ」
「うっわあ、すげえ間抜けヅラ。イキてえの?」
 亀頭を人差指と親指で抓ってやるとヴェストは悲鳴じみた情けない声を上げた。すぐに指を放して、今度は尿道口を髪の先端でほじくってやり、びくびくと震えるヴェストの性器をいたぶってやる。
「い゛、きた……あぁぁっ、いきたい、兄さん、にいさん゛ッ! いぁ゛ァッ、もう、たのむから……っ!」
「お兄様にお願いするにしちゃあ、随分と言葉が足りないんじゃねえのか?」
「ぁ……っ、お、おねがいしま、すっ…あ゛っん、あぁっ、にいさんのきれいな髪にっ、こ、こすられるのが気持ち良く、あ゛ぁっ、気持ちよくて硬くなった、おれのきたないペニスから……ッ、ザーメン出させてください、兄さんのやわらかくてきれいな髪っ、俺のザーメンで汚させてくら゛ひゃ、い、ぁ゛ぁあぁっ、いかせて、にいさん、いかせてくれ、ぇ゛っ!」
 腰を揺すって俺の手と髪に与えられる刺激を貪るヴェストの淫らな言葉に、俺は口角がつり上がっていくのを感じた。ああ可愛い。
 がくがくと笑う膝で必死に踏ん張り、ぼろりと涙を落として懇願するヴェストはたまらなく間抜けで浅ましくて最高に可愛いと思う。
 おねがい、いかせてにいさん。舌足らずに喚くヴェストのお願いを聞き入れてやる優しいお兄様は、根元をせき止めていた指をわざとゆっくり外していった。もどかしそうにふるえる腰と声、脈打つ性器が限界を訴える。
「あ゛あぁっ、あ゛んっ! ひ、ぃ゛ぅっ、でる、でてる…にいさんの髪に、っ、俺のザーメンがたくさんかかってる゛ぅ……ッ!」
 ヴェストは恍惚とした表情で言葉と精液を垂れ流し、びゅくびゅくと俺の髪に精子を飛ばす。どろりと頭の側面を伝う生ぬるい精液は不快に思うべきものなのだろうが、ヴェストのものだと思えばむしろそれは快感であった。俺も大概変態か。
 最後の一滴まで俺の髪になすりつけて、ヴェストはうっとりと目を閉じて荒い呼吸を整えていた。こら、と声をかけて太ももをべちんと叩いてやると、ヴェストは慌ててソファーに乗り上げて俺の肩に手を置いた。
「い、っいま、きれいにするから……」
 そう言ってまだ整っていない息をそのままに、ヴェストはまた俺の髪に唇を寄せた。俺の耳の裏を伝う自分の精液を下から舐め上げ、ついでにぴちゃぴちゃと俺の耳殻をしゃぶる。そうしてから髪と地肌に付着しているであろう己の精液を丹念に舌で拭っていくヴェストは、どうせまた酔いしれたような顔をしているんだろう。残念ながら俺からは見えないが。
「ヴェースト。いま何に興奮してる?」
「は、ぁっ、にいさんが、兄さんの髪が、俺のザーメンに汚れてしまったことに……っ、すごく興奮してる…。さっきまで兄さんのにおいしかしなかった髪が、今は……ぁんっ、俺のザーメンの臭いをさせて……ッ!」
 ああうん、ごめん。聞いてみたけどよく分かんねえや。
 ふうふうと熱い吐息を漏らし、ヴェストは懸命に俺の髪や地肌を舐めていく。時折体を引き、俺の毛先をちろちろと舐ってはまた地肌をべろりと舐める。耳の裏の生え際や毛髪の付け根を舌で探るように舐める弟の腰を、つい、と撫でてやった。
「ん゛、ゥッ!」
 びくんっ、と大きな体を揺らすヴェストが可愛くて、俺は調子に乗って溝をたどって尾てい骨を撫でたり、指を上にすべらせて背骨をゆっくりとなぞったりしてみた。
 ヴェストはいつの間にか俺の髪や地肌を舐めるのをやめ、気付けば俺の腕に縋りつくようにして体をすり寄せていた。にいさん、とねだるような声で呼ばれたが、俺はわざと首をかしげて視線だけで問いかけてやる。なにがしたい? と。
「兄さん、……抱かせてくれ」
「うお、そう来たか。今は抱かれる気分じゃねえなあ」
「なら抱いてくれ。……にいさんが、ほしい」
 どこか恍惚とした色を含んだ声が、俺を求めた。笑みに歪んだヴェストの唇が俺の唇を求めたが、ザーメンと汗にまみれたキスなんざごめんだね、と振り払うとヴェストは本当に悲しそうな顔をしていた。眉間に皺を寄せたその表情に背筋がぞくりと震える。
 にいさん、と不満そうに呟くヴェストの鼻の頭に小さくキスをして、俺はソファーを立った。追い縋るように俺のシャツの裾を掴んだヴェストの手を引いて立ちあがらせる。
「ベッドに行くのも待てねえのか? ちょっとはオアズケも覚えろよ、ダメわんこ」
 くるりと背を向け、寝室に歩き出そうとして足を止める。
「あ、ズボンはくなよ。どうせすぐ脱ぐんだから、ちんこ丸出しの情けねえ恰好で歩け」
 言葉になる前の、ひゅ、という空気を吸い込む音がした。たぶん今振り返ると、ヴェストが恥ずかしそうな、それでいてどこか悦を含んだ顔をしているのだろう。振り返らなくても、なんとなくそんな気がした。

 さっさと寝室に入ってしまった俺を慌てて追いかけ、ヴェストがドアを開けて入ってくる。俺のいいつけを守って下半身には何も身につけずにいた素直な弟に、俺は嘲笑を送ってやった。
「なにちんこ出してんだよ変態。しかもちょっと勃ってるし、若いなーヴェストは」
 恥ずかしそうに顔を俯けて視線をそらすヴェストに恥ずかしい言葉を投げかける。これで興奮するんだから、我が弟は随分な変態に育ってしまったようだ。どこで育て方間違えたかなー、可愛いから別にいいけど。
 おいで、と手招きしてやると、ヴェストはおぼつかない足取りでふらふらとベッドに座る俺に歩み寄り、床に膝をついて俺のふとももに手を置いた。ためらいがちに俺の膝を割り、布の上から俺の性器に唇を寄せた。愛しげにちいさくキスを繰り返すヴェストの髪を撫でてやると、ヴェストは嬉しそうに鼻を鳴らしてゆるく反応している性器を布越しにくわえる。
 おずおずと俺のボトムを脱がそうとするヴェストに従い、腰を浮かしてやる。ボトムと下着を抜き去ったヴェストは、心なしか呼吸も荒くなっていた。
「脱がしただけで興奮すんなよ」
 呆れ気味な俺の声は届いていないのか、それともそんな余裕はないのか、ヴェストは答えずに俺の股間に顔をうずめてしまった。すぐに性器を口に含もうとするかと思いきや、ヴェストがまず唇をつけたのは俺の陰毛の生え際だった。毛の流れに沿って陰毛全体にべろりと舌を這わせる弟を見下ろすのは、妙な気分だった。
「ぁあ……にいさん、汗臭い」
 嬉しそうに呟くヴェストが何に興奮しているのか、よく分からなかった。それは欲情するポイントではないような気がするが、それを指摘するのはもう諦めようと思う。
 はあはあと熱い息がかかり、腰が疼く。しかしうっとりと俺の陰毛やら性器の付け根、陰嚢を舌で突っつきながら俺の脛を毛の流れに逆らって手のひらでざらりと撫で上げているヴェストに手出しする気も起きず、少し急かすように金色の髪に指をさし込むほどの催促しかしなかった。
 ヴェストはちらりと目だけで俺を見上げ、俺が何を求めているのか分かったのだろう、幹をゆるくしごきながら先端を熱い口内に迎え入れた。唾液を絡め、舌でこする。ちゅぐ、ぢゅ、とヴェストの唇からいやらしい音がした。
「んん゛ぅっ……ん、ぁっん、は…っ、んむ……うぅっ」
 皮を唇でめくり、露出させた亀頭を唇で挟まれる。窄めた唇が搾り取るようにずぶずぶと俺を飲み込み、鼻先を陰毛にうずめて苦しそうに喘ぐヴェストの目尻には涙がたまっていた。
 頭を上下させてじゅぶじゅぶと水音をたて、吸い付いては吐き出し、また深く沈める。くびれの部分を舌先でねぶって吸い上げられ、ぞくりと腰がふるえた。
「ぁあ……ヴェスト、いまのきもちいい…」
「ん゛っぁ……あ、ぁうっ…んっぐ、ぅっ」
 何か言いたいらしいが、俺の性器をくわえてもごもごと味わっているようにしか見えない。むしろ本当にただ味わっているだけなのかもしれないと思わせるほど、ヴェストの表情はうっとりとしていた。
 いたずら心から、ぐっと腰を突き出してヴェストの喉を突いてやる。
「ぅん゛んっ! ン゛ぅっ…が、っは」
 涙目でげほげほと噎せ、ヴェストは口を大きく開けたまま俺のペニスを吐き出してせき込んだ。開いたままの口からどろりと唾液が落ちる。
「もういいからベッド上がれ。ローションまだあったろ、自分でケツん中に指突っ込んでるところ俺に見せてみろよ」
 床に座り込んでまだ噎せているヴェストの顎につま先をひっかけ、顔を上げさせた。半開きの唇はためらうように動いたが、言葉を紡ぐことはなく、そのまま俺の足の爪に恭しくキスをしてからのたのたと体を起こし、ベッドのふちに手をかけてベッドに上がる。
 大人しくベッドの横の棚から残量が半分以下になっているローションのボトルを取り出し、ぬめる液体を手のひらに出した。戸惑うように俺を見てくるヴェストに、四つん這い、とだけ短く命令を出してやるとヴェストは素直に四つん這いになって後ろから手を回し、ゆっくりと指を埋め込んでいくのが見えた。
「ぁあ、あ、あっ……」
 一本、二本、と早急に増やされる指が、ヴェストの体内を犯している。自分の指で自分を犯す感覚にふるえるヴェストは、頭を下げて額をシーツに擦りつけて喘いでいた。時折、にいさん、という声が入る。俺の指に犯される錯覚でも起こしているのだろうか。
 顔上げろ、と、ほとんどほつれている髪を掴んで引っ張ると、情欲にとろけきった目が俺の赤を捉えた。ほしい、と音のない言葉が俺を求める。
「ほしい?」
「ほ、ほしい……兄さんがほしいんだ、にいさ、…ぁんっ、にいさん、兄さん…っ」
「ああもう、お前はほんとに頭悪いな、言葉が足りねえって言ってんだろ」
 べしっと中指でヴェストの額をはじいてやるとヴェストは衝撃に目を瞑り、おずおずと目を開きながら濡れた唇で卑猥な言葉を紡いだ。
「兄さん、おれの……っは、ぁ、俺の口でがちがちに、き、気持ち良くなった兄さんのペニス……っ、にいさんのペニスを俺の尻の穴に突っ込んで、ぁっ、腹の中ぐちゃぐちゃにして、ください……ッ!」
 大きな体、広い肩をぶるぶるとふるわせ、泣きそうな顔を真っ赤にしながら俺に懇願するヴェストは滑稽であさましくて世界一可愛いと思った。

 棚からコンドームを出して袋を破いてペニスにかぶせる俺を見て、ヴェストが異様に不満そうな顔をしていたのは見ないふりをすることにした。
 四つん這いの状態のままでいるヴェストに覆いかぶさり、肉の襞がひくひくと俺を求める箇所へ先端を押しつけた途端、ヴェストがびくっと震えて突然抵抗を始めた。慌てて俺を振り返るヴェストの剣幕に、俺の方が焦ってしまう。
「な、なんだよ」
「いやだ、兄さん、後ろからは嫌なんだ」
 しきりに後ろから抱かれることを嫌がるヴェストに、理由を尋ねると、また珍妙な答えが返ってきた。恥じらいながら視線を彷徨わせ、
「うしろから、だと……兄さんの髪に触れない」
 今日のヴェストはどうあっても髪に固執するらしい。
 呆れ気味に溜息をつき、それでも可愛い弟のお願いをアホらしいという理由で却下することもできずに従ってしまう俺は甘いのだろうか。最愛の弟に甘くなって何が悪い。
 ベッドの上で筋肉のがっしりついた重たい体を転がし、膝を割って再度腰を押しつける。先端をぐっとめり込ませると、ヴェストの喉が歓喜にうちふるえるような声を上げた。
 わざとゆっくり腰を押し進め、焦らすように揺すってやると、鼻にかかったような情けない悲鳴が聞こえる。
「ぁあ、っひぃ……にいさん、はやく、はやくいっぱにしてくれ……ッ!」
 自ら腰を揺らし、はやく俺を貪ろうとするヴェストの熱い吐息に浮かされる。ああくそ、かわいい。
 ヴェストにねだられるまま、ヴェストの腹の中に根元まで押し込んで小刻みに揺する。あ、あ、と短い悲鳴が上がった。
 俺の腕を掴んだまま強張っている手を取り、今日はやけに執着を見せてくる俺の髪にヴェストの手を導いてやった。そうするとヴェストはめいっぱい幸せそうに目を潤ませ、はくはくと唇を開閉させる。まさか、と思って腰を折り、頭をヴェストの口元に近づけてみると、ヴェストは甘ったるい声を上げて俺の髪にむしゃぶりついてきた。
「ぁんっ、あ、ああ゛ァあっ! にいひゃ、ぁ…ッ、んむっ、ぁう゛ぅっ、ん」
 ちゅくちゅくと俺の髪をしゃぶり、両手でぐしゃぐしゃと俺の頭をかき抱いて髪を乱してくる。ぐっと腰を押しつけてえぐってやると、耳元で嬌声が迸った。
 胸と胸をぴったりと密着させる形で揺さぶり、ヴェストの甘い悲鳴を耳元で聞く。たまに鎖骨の辺りに噛みついてやると、ヴェストはそれをも嬉しそうに受け止めていた。その間中ずっと、ヴェストは俺の髪にぺちゃぺちゃと舌を這わせて一心不乱に舐め続けていた。何が楽しいのか俺にはよくわからないが、その行為のせいで俺の髪はヴェストの唾液でべたべたになっていた。
「あ゛あぁーっ、あっん、ん゛んぅっ……っく、ぁんっ、兄さん、にいさん…ッ」
「髪なんか舐めて興奮して、ちんこ突っ込まれてあんあん喘いで、……っふ、ぁ、おまえほんっとうに変態だよな……銀髪だったら誰もいいのか?」
 Neinが返ってくることを分かっていて、俺はわざと意地の悪いことをヴェストの至近距離で囁いてやる。ヴェストは一瞬ひゅっと喉を鳴らし、引きつったように何度か呼吸をしてからNeinと答えた。
「ぃ゛あぁ……にいさん、だから……ッ! 兄さんのっ、…だいすき、な兄さんの髪だから、ァあっ、興奮する、し……っは、ぁっ、ぁんっ、にいさんのペニスにぐちゃぐちゃに、ぃっ、されるから、気持ちいいんだ…ッ!」
 よくできました。
 褒める代わりにずるりと性器を浅いところまで抜き、敏感なふちのあたりで何度も出し入れする。断続的な悲鳴が上がるのが楽しくて、今度はもう少し深い場所をえぐってやった。前立腺をごりごりと擦ってやると、ヴェストは喉を大きく反らせて叫ぶように喘ぐ。さっきまで目尻に溜まっていた涙は、もうとっくにぼろぼろと流れ落ちていた。
「あ゛ぁあぁァッ! あ゛ッ、ぃあ゛ぁーっ、んぐゥっ…っは、はぁっ、あ゛ー……ッ!」
「声でけえんだよ、変態!」
「そこ、ぉ゛っ、ごりごりしな゛ッ、あ゛ッ、あ゛ぁーッ、しな、っでぇ゛ぇっ、だめ、いく、いっちゃ……ッあ゛ぁっ、きもちいぃ゛ッ、も……いく、いくぅ゛ッ!」
 泣き喚きながらびくびくと大きな体を震えさせ、ヴェストは俺の髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜながら自らの腹をザーメンで汚した。絶頂に痙攣するヴェストを更に揺さぶり、俺も遅れてゴムの中に精液を吐き出した。
「っん゛ぅっ……っく、ぁ…っ、あっ……あ゛ぁー…ッ! 兄さん、にいさ、ぁん…っ」
 余韻に浸り、不規則な痙攣を繰り返して荒い呼吸をするヴェストから、ずるりと薄いゴムに覆われた性器を引き抜く。ひく、と肩をすくめるヴェストの頬には涙の跡がくっきりと残っており、俺はそこに軽く唇を触れさせてからコンドームを外した。口を縛ろうとしたところでふと思い立ち、ヴェストに向き直る。
「ヴェスト、口開けろ」
 ぼんやりとした意識でよく分かっていないのだろう、それでも俺の言葉に素直に従い、餌を待つ雛鳥のように口を開けるヴェストにいたずらしていいものか悩んだが、まあ構わないだろうと結論付ける。俺がヴェストに甘いように、ヴェストも俺に甘いのだから。
 ぽかりと開いたヴェストの口に向け、コンドームを逆さにする。縛っていなかった口からどろりと白い体液が流れ、ヴェストの口にべちゃりと垂れた。
「ぁん゛……ッ?」
 舌に落ちてきた精液に驚いたのか、ヴェストはうつろになっていた目を見開いて俺を見上げてくるが、俺が無言で唇を叩くのを見てヴェストは口を閉じてそれを飲み込んだ。喉が上下するのを確認して、俺はヴェストの乱れ切った髪を撫でてやった。
「いい子だなヴェスト」
「意味の分からん、ことをするの……やめてくれ」
「それをお前が言うか、おまえが!」
 俺の読書の時間を突然の襲撃によって邪魔し、いきなり押し倒して首やら髪やらを舐めまわし、俺の髪に精液をぶっかけてくれやがった男が何を言うか。鼻の頭を人差指で押さえながらそう言ってやると、ヴェストは眉を下げて、すまん、と一言呟いた。
 ヴェストの唇の上には、先程抜けたのであろう俺の色素の薄すぎる髪が一本乗って光っていた。






end.






























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 兄さんがちんこって言うのにすごく萌える。

 本当は兄さんの体臭について様々なパターンを考えるだけの小ネタのつもりだったのにこんなことになるとはお天道様でも思うまい。







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