caution baby!





 血の臭いには慣れていた。生まれたときから刃を振りかざしていた俺には、そんなものどうでもよかった。
 守るものは己。倒すべきは敵。そんな簡単な世界に生きていた。
 けれど世界は変わる。

 音を立てぬようそっと部屋に入ると、ぼんやりと灯りがついていることに気付いた。目を凝らすと、ベッドの上にはちいさな体がちょこんと座っており、俺の姿を認識すると嬉しそうに立ち上がってぱたぱたとこちらに駆け寄ってきた。
「お、おかえり……にいさん」
「ん、ただいま」
 血にまみれた両手を洗い流し、きれいになった両手で小さな子供を抱き上げた。顔中にキスをされて少し困った顔をしながら、子供はそれでも嬉しそうに俺の腕に納まった。
 身長は俺の胸にも届かないくらい。きらきらとした大きなあおい瞳。ランプの灯りを受けてオレンジに光る、本来は澄んだ金色の髪。かわいいかわいい、俺の弟。
「こんな時間まで起きてたのか?」
「……待ってた、から」
 細い腕が、恥ずかしそうに俺の首に回される。ぎゅ、と抱きついて赤くなった顔を見せまいとしているのだろうが、俺の頬に触れた弟の頬が熱くなっていることに俺が気付かないわけが無い。
 ヴェスト。俺の愛しい半身を特別にそう呼ぶのは、この世に俺一人だ。
「ありがとうな、ヴェスト。遅くなって悪かった」
「うん……ちゃんと帰ってきてくれたから、べつにいい」
 そっと上げた顔は、やっぱり少し赤かった。その頬に唇を小さく触れさせ、とろん、と眠そうにとろけている目元にもキスをする。
 ヴェストを抱えたままベッドに腰を下ろすと、スプリングがふたりぶんの体重に軋んだ。
 時間はもうとっくに夜更けと呼んで差し障りの無い時刻。月が中天を指し、世界が静まり返る時間だ。幼い体内時計に逆らいながら俺の帰りを待っていたヴェストに罪悪感と、それから同時に愛しさが溢れて止まらない。
 何度も頬や額にキスを繰り返すと、くすぐったそうに身をよじりながらヴェストがくすくすと笑った。そのちいさな手のひらで俺の頬に触れると、やわらかな唇が負けじとキスを返してくる。
「俺の可愛いちびすけ。待たせてごめんな、眠かったろ? 一緒に寝ような」
 髪をさらさらと梳いてやると、普段は嬉しそうに目を細めるくせに今は少し不機嫌そうな表情を作られてしまった。ん、と顔を覗き込むと、ちいさな唇がぶつぶつと文句を垂れているのが聞こえた。
「子供あつかい……するなっ」
 その唇に耳を寄せると、そんなことを言っているのが聞き取れる。一人前に自尊心は高いらしく、眠さからくる不機嫌も手伝ってどうも俺の言葉に傷ついてしまったらしい。子供の扱いは本当に難しいと思う。
 悪い悪い、と笑いながらそのちいさな体を抱えなおす。重くなったな、と実感した。少し前までは片手で支えていられた体も、今では両手を使わなければ重くて抱き上げてやれない。子供の成長は早く、俺が戸惑うほどだった。
 けれどヴェストは俺のことを兄さんと呼んで慕ってくれる。帰りがこんな夜更けになっても待っていてくれるし、俺が抱きしめてやれば嬉しそうにそれに応える。
 けれど今日は少し機嫌がよくないらしい。
「そうだな、おまえは立派な男だ。……ほら、眠いんだろ? もう寝るから、駄々捏ねるのはおしまいだ」
 俺の物言いはやはり彼の自尊心を刺激するような言葉だったらしく、むっと唇を尖らせるとヴェストは俺の顔をちいさな両手で固定した。
「子供あつかいするなと……言ってるんだ!」
 かぷ、と仔犬に甘噛みされたような、可愛らしい痛みが唇に走る。けれど俺にとっての衝撃は軽いものではなかった。
 舌。舌が、ヴェストの温かい舌が、俺の口内にぬるりと侵入してきている。俺は驚いて大した抵抗をすることも出来ず、俺の膝に跨って遠慮なく体重をかけてくる子供に好き勝手キスされてしまった。
 うまく息継ぎが出来ていない、乱暴な口付け。舌が俺の上顎をべろりと舐め、俺の舌を撫でてからゆっくりと引き抜かれた。
「んっ……ァ、ふう…」
「っは、ヴェスト! な、なっ……こんなの、どこで覚えたんだ!」
 誰だ。誰かがヴェストにキスを教えたのか。俺の可愛いヴェストに。俺との、戯れのような親愛のキスしか知らないこの幼子に、誰が!
 ふつふつと腹の底に湧いてくる怒りは、誰とも知らない見えない敵に向けられた。次にヴェストの口から出てきた奴をとっ捕まえて引き裂いてやるくらいの権利、俺にはあるはずだ。
 けれど俺の予想を裏切り、ヴェストのちいさな唇が紡いだのは意外な名前だった。
「にいさん」
「は?」
「兄さんの、書庫の奥のほう……新しい本棚に、知らない本があったから。恋愛小説って初めて読んだんだが、そこに書いてあった。おとなのキスはこうするんだろう?」
 さて俺はこの怒りをどこにぶつけるべきなのだろうかと真剣に悩み始めた。手始めに、無意味にフランスとかボコりに行くか?
 確かに俺は最近新しく本棚を買い、そこには近頃巷で流行っている恋愛小説を置いて書庫の奥に設置した。俺が教えてやれないことをヴェストが本から吸収するのは素晴らしいことだと思っているから、書斎への出入りは特別に禁止したりはしていない。むしろ勉強熱心なこいつをいつも褒めているくらいだ。
 いつも出入りしている書庫に、見知らぬ棚と本があれば……そりゃ、読みたくもなるか。ヴェストを責めることは出来ない。
 だが、確かあの辺りの本はキス以上、言ってしまえば性描写のある本も多くあったはずだ。どうも最近の恋愛小説はそういう類のものも多く見られる。
「……まさか、キスより先のことしてるトコ、読んでねえよな?」
「読んだ」
「げっ!」
 あまりにしれっと肯定されて、俺は背筋がひやりと冷えた。俺の愛しい幼子が、下品な知識を持ってしまったらどうしよう。というか、そんな本を所持している俺を軽蔑でもされてみろ。泣くぞ、マジで。
 焦る俺のことを不思議そうに見つめる目が、少し伏せられる。でも、というつなぎに耳を傾けると、「わからなかった」と一言。心底ほっとした。婉曲で間接的でロマンチックな描写ばかりの、けれど確実に性的な文章は、まだこの子供には理解できず、その意味も分からなかったらしい。
 ガキでよかった、なんて不用意な一言を発してしまったのは、その安堵からか。
「……じゃあ教えてくれ。彼らはどんなことをしていたんだ?」
 むっとした表情で、拗ねたような声音。俺は膝の上に乗せたままの小さな体を抱きしめて、背中をぽんぽんと叩いてやった。
「子供にはできねえことだよ」
「俺は子供じゃないからできる」
「ダメだ」
「やだ……する」
 頑なな態度の子供に、俺もいいかげん焦れてきた。生憎と、疲労した体でちびのわがままに付き合っていられるほど立派な精神を、俺は持ち合わせていない。
 無言でヴェストのシャツの裾に手を忍び込ませた。冷えた手のひらに、子供の高い体温を感じる。
 背骨の溝を指先でなぞり、そのまま脇腹に指をすべらせてそっと撫でた。へその周りを手のひらで押さえ、全体でゆっくりと撫で回す。柔らかくて傷の無い肌はすべすべで、俺の傷だらけの荒れた手のひらを痛がった。
 びくん、とヴェストのちいさな体が跳ねる。
「ひ、ゃっ!?」
 少し、脅してやろうと思った。
 おまえはまだ子供だ。子供は、不用意に大人にそんなこと言っちゃいけない。大人はきたないから、おまえはまだ子供のまま俺の腕の中で眠っていればそれでいい。無理に大人ぶる必要は無い。俺が守ってやるからまだ子供のままでいいんだ。
 俺の体を襲う疲労と睡魔、それから、精神を蝕む異常なまでのヴェストへの愛しさが、忠告を脅しに、いたずらに変える。
「あっ、ん……やっ、にいさ…っ、にいさんっ?」
 俺の服の肩の辺りを掴んで、必死に俺を呼ぶヴェストの耳の裏に唇を触れさせ、舌先で撫でる。そのまま耳の後ろから顎にかけてのラインを舌でなぞって、喉仏も出ていない細い首に甘く噛み付いた。
 服の中をまさぐっていた手のひらを下げ、短いズボンの中に突っ込んだ。足の付け根を指で撫で、ぷにぷにと柔らかい太ももの内側を軽くつねった。短い悲鳴が上がったことに気をよくして、今つねった箇所を優しくさすってやるとヴェストは震える声で俺を呼んだ。
「にいさん……兄さん、っア、ぅ…っは、あんっ、にいさ、ん……!」
 太ももから尻に手を移動させ、やはりやわらかいそこを撫でながら、反対の手で今度はシャツの上からヴェストの薄い胸を撫でた。肉の全然ついていない、まっ平らな胸を指先で刺激すると、生意気にぷくりと膨れた。そこを爪の先で突付いてやると、ヴェストがぽってりとした厚い唇をぎゅっと噛み締めて泣きそうな顔をした。
「は、っん……ぁん、うぅっ……や、やだ、にいさんっ、もう、っ…!」
 指の腹で押しつぶすようにして与えられる刺激に震えたヴェストが、目尻に涙を溜めてふるふると首を左右に振る。少しいじめすぎたような気もするが、これに懲りて無理に背伸びすることが無くなれば良い。
「怖いだろ? だから言ったんだ、おまえにはまだ早――」
「ちがう、もっと! ……もっと、さわ…っ、触って欲し、いっ」
「は?」
 おい、予定と違うぞ。
 覗き込めば、ヴェストの大きなあおい瞳には涙の膜が張っている。潤んだ目が訴えるのは、恐怖ではない。もっと甘ったるくて、もっと背徳的な、快楽。
 戸惑う俺にヴェストはぎゅっと抱きつき、腰をぐいぐいと俺の腹の辺りに押し付けてくる。幼い性器がわずかにかたいような気がしたのは、俺の錯覚であって欲しい。
「ここっ、……じんじんして、っあン…わ、わかんな……っふ、ァんっ、わからないけど、きもちい、いっ」
 ぷつ、と頭の中でどこかが切れる音がした。

 可愛い、愛してる、大切にしたい、守ってやりたい、俺の愛しい弟。それが、俺の情欲の対象になる日が来るとは夢にも思わなかった。
 確かに、好きだ。愛している。唯一の肉親として、弟として、俺の半身として。そして、ドイツというたったひとりの存在として。思えば最初から、俺はこの子供をそういう意味で愛していたのかもしれない。
 ねっとりと唇同士を合わせ、そこから先程の仕返しとばかりに舌を捻じ込む。あたたかくぬめる口内を俺の舌で蹂躙してやり、僅かに震える細くて頼りない体をきつく抱きしめた。
「ヴェスト……いまから、子供には絶対にしちゃいけないことをおまえにする。怖ければ言え。今ならやめてやれる」
 抱きしめる腕に力を込めすぎたためか、少し息苦しそうにしながらそれでもヴェストは挑むように生意気な瞳を俺に合わせてきた。とろりと濡れた瞳は澄んだ青で、今からこの瞳を醜い欲で汚すのかと思うと背筋がぞくりと震えた。
「やめな、い……っ!」
「……そうか」
 罪悪感が無いなんてことは、決してありえない。罪悪感で一杯だ。押しつぶされそうなほどの、罪の意識。けれど俺を苛むものはそれだけではなく、むしろ今は罪悪よりも欲望に苛まれるほうが俺には辛かった。
 いますぐ、ぜんぶ、全部めちゃくちゃに壊すほど弟を犯してやりたいなんて、どうかしている。


 かぷ、と耳朶を甘く噛み、ねぶって、たっぷりの吐息を含ませた声で名前を呼ぶ。
 片手をヴェストの背中に回して体を支えながら、もう片方の手は再び薄い胸にしのばせた。今度は直接、肌を、突起を愛撫する。まるで女にするような愛撫を幼い弟に施す倒錯感に、くらくらした。
「は、んっ……あぅ、うんっ、んーっ!」
 ぎゅっと閉じた目尻から、ぽろりと水滴が落ちる。それを唇で拭ってやり、目尻から頬、そしてもう一度唇にキスをした。
「泣くなよ、ヴェスト」
 女に施すような愛撫をしながら、けれど女には決して出来ない箇所も指先でそっと撫でた。小さく幼いものは生意気にもかたくなっており、俺が触れるとヴェストの体が大袈裟なほどに跳ねた。
「こわい、か?」
「ない、てない……ァんっ、は、ひぁっ、泣いてない、こわくないっ!」
 むきになって首を左右に振り、否定する。いつもの子供らしからぬ聞き分けのよさと、落ち着いた態度からはあまり想像できないほどの幼い動作に、笑みが漏れた。
 指の腹で先端をぐりぐりといじってやると、俺の指先がとろりとした体液に濡れた。短く喘ぐ声は徐々に高くなり、俺の服を掴む拳はまっしろになっていた。
「あ、あっ、あッ、ん! ひっ、ィあ、アぅ……にいさ、ん…っ! あッ、ぅ、もっと……」
「やらしいな、ヴェスト。ちっちゃいくせにこんな敏感で……ほら、もうイくんじゃねえの」
 皮ごと強く上下にしごいてやると、小さな体がびくんと大きく跳ねる。
 強張る体を支えている手でヴェストの腰を上げさせ、ズボンをずり下げた。けれどそれだけではやはり邪魔で、力が入らないと分かっていながらも足を持ち上げさせてズボンと、ついでに下着も引き抜いてやった。
 透明な体液に濡れた、幼くちいさな性器が俺からの刺激を待ち望んで震えている。片手に収まるほどのそれを手のひら全体で揉みこんでやると、ヴェストは俺にきつく抱きついてきた。
「っは、あっ、あアッ……ッ、んーっ、あふ、ぅ、うっ! は、ァっ、な、なんか、くる、ぅ……!」
 びちゃ、と俺の手のひらを、幼い精液が汚した。おなじ青臭いにおい。
 俺に抱きついたまま、俺の膝の上でくたりと力を抜いてもたれかかってくる弟の体を、汚れていないほうの手でしっかりと支えた。
 短い呼吸を繰り返すヴェストの頬にちいさくキスを落とし、押しつぶされそうなほどの罪悪感を誤魔化した。止められない、止める気はない。
「終わりじゃないぜ、ヴェスト」
「ふ、ぇ……ひゃ、アァっ!」
 濡れた指を、狭くきついところに半ば無理矢理押し込む。傷だらけの指が、ぎちぎちに締め付けられた。
「いっ、あ、ああっ! いた、いたいっ、……っく、ァ、ひぅっ…あ、うぅ……っ!」
 悲鳴じみた声が上がり、短い爪が俺の肩に食い込んだ。ぎゅうぎゅうに抱きついてくる背中を、あやすようにぽんぽんと叩く。けれど内部を探る指は止めず、中指をなんとか根本まで埋め込んだ。
 浅く荒い呼吸を繰り返して上下する胸から伝わる鼓動は、ひどく早かった。
「ぁ……あ、あっ、にいさん……ひ、ぐっ、うァ…」
 名前を呼んでやると、痛みに混乱した声で何度も兄さん、と呼ばれる。愛しい弟は、俺に痛みを与えられ混乱しながらも、それでも決して拒否を示す言葉は発しなかった。
「ヴェスト……ヴェスト、俺の可愛いヴェスト」
「にいさん、兄さんっ、……ぁ、アッ、は、っう…ぅ!」
 ようやく少し慣れたのか、呼吸の落ち着いてきたヴェストの頬にキスをしてやる。赤く染まった頬と恍惚とした色を湛えた瞳が、俺の情欲をさらに掻き立てた。
「なん、か、ヘンだ……ァっう、ふ、うぐっ…ァ、きもち、イイ……!」
 ぐりっ、と中を抉るようにねじって、へその内側辺りを指先でつつく。僅かにかたい箇所に触れた瞬間、ヴェストのちいさな体が大袈裟なほどに跳ねた。自分でも驚いているようで、ヴェストは目を瞠って混乱したような表情を浮かべていた。
 しつこくそこを突付いてやると、ヴェストはびくびくと可愛らしく震えて涙声で俺を呼ぶ。
「やァっ! に、にいさ……そこ、なにっ、んあァっ! 兄さんっ、ひ、ィッ、あ、ああっ、すごい、っ……!」
 指を二本に増やしても、ヴェストは痛がることなく飲み込んでしまった。徐々に指の隙間を大きくし、そこを拡げていく。前後に小さく揺らし、ぐっと奥まで押し込んで先程の箇所をぐにぐにと揉むように押してやった。
 小さい体が悲痛なほどの快感を訴え、あおい目からぼろぼろと零れる涙が灯りを反射して光った。
「ァ、あっ……は、…ァ、は、はっ……はぅ、う、……ッ! あァ……も、死んじゃ…ァう、きもち…いっ!」
 ひく、ひくっ、と痙攣して、過ぎた快楽に髪を振り乱す。先程解放したばかりのところに、再び熱が集まっていた。
 ヴェストの狭いいりぐちから指を引き抜くと、ヴェストは安堵したように、けれどどこか不満そうに俺の赤い目を覗き込んできた。どうして抜くの、と問いかけられている気がした。
 俺の膝の上に乗せているヴェストの体を少しずらして、己のズボンのジッパーを下げた。片手で支えるには少々重い体をどうにか押さえて、膝の近くまでズボンをずり下げることに成功する。
 下着ごとずらしたために、既にかたくなっている俺のものが露出し、ヴェストに触れるか触れないかの位置で存在を主張していた。
「にいさん、の?」
「ああ」
 ヴェストの小さな手が、それに触れた。短い指の先にはちいさな爪がちょこんと乗っていて、短く切り揃えられたそれが先端を意図せず引っ掻いた。それだけで、じくじくと腰に集まった熱が沸いてしまう自分が浅ましい。
「おっきい……にいさんの、すごい」
 子供らしい拙い言葉にひどく興奮する。不器用な手が、稚拙な愛撫をそれに施す姿は眩暈がするほど淫靡で、俺はおぞましいほどに背徳を感じていた。
「んッ……ァ、ヴェスト…っ、はっ、あ!」
「にいさん……にいさんも気持ちいいのか? ッ、おれ、も……ッ、ァん、…ぅっ!」
 くちゅ、と卑猥な水音を立てながら、あろうことかヴェストが手の中の俺のものに自分の幼い熱をすり寄せてきた。
 俺はたまらず、ヴェストの顎をつかんで上を向かせ、乱暴に噛み付くようなキスをする。がち、と歯がぶつかったけれどそんなことに構っている余裕は無かった。俺に施されるキスに応えるので精一杯なのか、一緒に擦り上げるちいさな手の動きが止まった。
 凡そ子供には似合わない、どうしようもなく俗物的な液体に濡れた両手が、再び俺の服を掴んだ。
「ヴェスト……もっとすごいの、していいか?」
 耳朶を食みながら、吐息を交えて呼ぶ。耳の裏にねっとりと舌を這わせてやると、ヴェストは面白いくらい素直に反応を示した。
 ヴェストは俺を見上げながら、健気とも呼べるほど必死に首を縦に振り、俺を呼んできた。俺はそれのひとつひとつに答えながら、短くて硬い金髪にキスを落とす。
「これ、狭いおまえの中にいれるんだぜ。さっき、すっげえ気持ちいいトコあっただろ。あそこを、ぐちゃぐちゃにするんだ……怖いか?」
「こ、こわい……にい、さんっ…怖い、っ!」
 子供は強がりの仮面を外し、素直に俺にしがみついてきた。こわい、とかたかた震えるちいさな拳に、今まで誤魔化して見ないふりをしてきた罪悪感が頭を出す。
 ごめんな、と呟いて、手を離そうとした。その手を、一回り以上ちいさな手が制す。
「やだ……やめるな、ァっ! やめないで、もっとして……っ、こわくない、いたいの、がまんするから……!」
「ヴェスト……」
「おねがい、っ……して、にいさん」
 潤んだ目で上目遣いに見上げられ、俺のなけなしの良心と芽生えた罪悪感がぽっきりと音を立てて折れたような気がした。

 指で慣らしたばかりの、けれどきつく窄まったいりぐちに、いきり立った先端をあてがう。腰を浮かさせたヴェストの背をそっと撫でながら、ゆっくりな、と声をかけた。
 こく、と健気に頷く弟が、ゆっくりゆっくりと腰を下げ始める。
「う゛ッ、ん……あ゛あァッ! っは、は、ァう……」
 苦しそうな呼吸と嬌声。きついそこに締め付けられる痛みに眉を顰めたが、ヴェストはこれよりももっと痛いのだろう。あおい両目からぼろぼろととめどなく涙を流し、時折しゃくり上げて泣いていた。
「ヒぅ…ッ、う、ん゛ッぅ……いた…ッ」
「ヴェスト、痛いか? やめても――」
「やァっ! やめない、いたッ、……い、痛くない、いたく……ッ、ない、から」
 どう見てもその言葉は偽りで、本当は痛くて苦しいのだろう。息が詰まったように嗚咽を漏らし、かたかた震える手が俺の服をぐしゃぐしゃに握り締めている。
 それでも、やめないでと懇願してくる弟が愛しい。そんな愛しい弟にこんな無体を強いている自分自身がなんとも醜い生き物に思えた。
「息、ゆっくり吐け……そう、いい子だ。吸って、うん、ゆっくりな、ゆっくり吐いて……腰、下ろせるか? 息を吐きながら、そうだ、いい子だなヴェスト」
 何度もヴェスト、と呼びかけ、背中や肩を撫でてやる。鎖骨にキスをしたり首筋を舐めたりすると嬉しそうに目を細めて、苦しげな表情が少し和らいだ。
 狭いそこを押し広げて侵入していくそれが熱く脈打って、痛みと同時にこの上ない快感を俺にもたらした。
 すべてが収まりきると、ヴェストは俺の首に腕を巻きつけ、ぎゅうぎゅうに抱きついてしばらく震えていた。
「うァ、っぐ、ぅ……ぜんぶ? にいさ、んッ、おれのなか、ぜんぶ入った、のか?」
「んッ……あ、ああ…」
 俺は今すぐにでも揺さぶって快楽を貪りたい衝動に駆られたが、俺はぐっと堪えて荒い呼吸を繰り返すヴェストの体を抱きしめる。布越しに触れたヴェストの心臓が、マトモに機能していることが不思議なくらいに急激な鼓動を刻んでいた。
 俺の耳元で繰り返される、短く浅い吐息にぞくぞくする。その吐息ごと全て飲み込んでしまいたい。
「くるし……あふ、ぅ、んっ…にいさん、にいさん……」
「ん……ヴェスト…ヴェスト、かわいいな、俺のヴェスト……うごいて、いいか?」
 いくらか呼吸と鼓動の落ち着いてきたヴェストを覗き込むと、真っ赤に染まった目元が俺を見つめ返してくる。薄く開いた唇が何か言いたげにうごき、けれど何も音にしないまま閉じられた。きゅ、と下唇を噛み締め、ちいさな首肯が返ってきた。
 俺は抱きしめたヴェストの背中を撫でながら、くっと腰を突き上げる。こどもの喉から、悲鳴にも似た嬌声が迸った。
「ふ、ぁああっ! あ、ひぃ、ッ…っふ、ァん゛っ……」
 ゆっくり、けれど徐々に強く揺さぶり始めると、最初は俺にされるがままに泣いていたヴェストが、段々と自ら俺の上で腰を降り始めた。いやらしい子供が、俺を呼びながら乱れていく。
 ベッドの上についた足に、中々入らない力を込めて上下する。短い金髪が白々しい光の下で揺れ、ぷくりと厚い唇が何度も何度も俺を呼んだ。その唇の端から、とろ、と唾液が垂れて顎から喉を伝っていった。
「アんっ、んぅ……は、っひぃ、アッ、ん゛ーっぅ……」
 ぐちゅぐちゅと、脳の芯を痺れさせるような音がしている。これをヴェストが、俺のちいさくて可愛らしい弟が上下するたびに発している音なのだと思うと、くらくらした。
 目の前では、幼い顔立ちの……ひとで言えばまだ十歳そこらの子供が、決して子供ではしないような恍惚とした表情で大口を開けて喘ぐ。その視覚的な刺激と、きつく狭いそこが締め付ける物理的な刺激に、俺は簡単に追い詰められていく。
 不意に、ヴェストの動きが緩慢になり、ついにはほとんど動かなくなった。
「ヴェスト?」
「……ひぅ、う…やっ、あ、もうだめ、うごけな……ッ、ぁ、にいさ、んっ!」
 きもちよすぎてもうわかんない、と呂律の回っていない舌でヴェストが紡ぐ。ずぐ、と俺の頭と腰が鈍く痺れた。

 柔らかく押し倒し、俺の下で俺を不安げに見つめる弟の額にキス。にいさん、と呟く唇ともキスを交わし、一度引き抜いたそこに再び押し当てた。
 先程よりは比較的すんなりと、けれどやはりきつく拒むように締め付けながら俺を受け入れる。足を限界ぎりぎりまで広げさせたため、太ももの内側がひくひくと引き攣れていた。その皮膚を人差し指でつう、となぞり、そのまま幼い性器にも手を触れさせた。
「ァん……っ! あぅ、う゛ぅ…にいさ、ひ、ィっ……にいさんっ、ンぁ…あアッ、にいさん、すき…好き、ぃ、もっと……っ!」
 それぞれ両手で頭の横のシーツをぐしゃぐしゃに掴み、ヴェストは白いシーツに金色の髪をぱさぱさと叩きつけた。泣きすぎて真っ赤になっている目尻にそれでもまだ涙を溜め、ぽろぽろとそれを零す。頬はもう、涙でべちゃべちゃに汚れていた。
 俺はヴェストの棒きれのような細い足を割り開き、膝の裏に手を当てて押し上げる。乱暴なほどに押し込み引き抜き、再び押し付ける。ヴェストの一番感じるところを何度も掠めてやると、俺を追い立てる締め付けもきゅう、と強くなった。
「にい、さ…ァんっ! やらぁ、あぅっん……ま、また、でちゃ…う」
 真っ赤な舌を突き出して、腰をくねらせながら喘ぎ泣く。はっ、はっ、と犬のような浅い呼吸を繰り返しながら限界を訴える弟に、俺は言葉をかけてやることができなかった。上り詰めていく自分を頭のどこか冷静な部分で見つめ、ヴェストのなかを蹂躙することばかりを考えていた。
 がつがつと貪るように叩きつけながら、片手でヴェストの性器全体を揉み込むように扱いてやった。色の薄い陰毛が僅かにしか生えていないそこに俺の傷だらけで荒くれ者のような手が触れることが禁忌じみて感じられる。
「っく、ぅ…ひぅ、ぅっ……ひ、っく…やぁっ……き、きもち…イっ、ああぁっ、らめ、出ちゃう、ぅっ!」
「俺も…ッ、ヤベ……っは、あっ、あ゛ァ…ぅッ!!」
 びくんっ、と一際大きく跳ねて、ヴェストがその幼い性器から青臭い精液を迸らせた。同時にさらにきつく締め付けられて、俺も限界を向かえる。
 俺の中にほんの僅か残っていた理性を総動員して慌てて引き抜き、ぎりぎりヴェストの中に出してしまうことだけは避けられた。根本を数回擦ってみっともなくぶちまけたものが、既にヴェスト自身の精液で濡れている白い腹にびちゃっと落ちた。

 はーっ、はーっ、と大きく胸を上下させて、荒い呼吸を繰り返す。くたりとシーツに沈み、涙を流しすぎて充血した目は半分ほど閉じられていた。
 胸元までたくし上げられたシャツはくしゃくしゃになり、腹の辺りにはヴェストと俺の混ざり合った精液が付着している。罪悪感と、良心の呵責と、どうしようもなく倒錯的な空間が発する無音の重圧に苛まれた。
 そこらにあった布で汚れた腹を拭ってやり、乱れた服を少しずつ直してやる。俺もだらしなく半脱ぎになっていたのズボンを直した。
 ヴェストはひくんっ、と時折体を痙攣させ、濡れた唇は小さな声で俺を呼んだ。その唇に俺の唇を触れさせ、俺は罪悪感に満ちた声音のままヴェスト、と何度も口にした。謝罪を乗せるにはあまりに滑稽な気がして、名を呼ぶことだけに留まる。
 ――子供だぞ。俺の愛しい幼子。将来は俺をも糧にして世界の全てを手に入れる子供だ。まだ何も知らず、まだ何も知る必要の無い、無垢な子供に俺は何てことを!
 頭を抱える勢いで己を責める俺に気付いたのか、ヴェストは未来に世界を掴むべき手を俺に差し伸べた。俺はどうしていいのか分からず、けれどその手を振り払うことなど最初から選択肢には無い。躊躇いながらその手をとり、指先にキスをしてそのあおい瞳を覗き込んだ。赤に縁取られた宝石のような瞳は、まっすぐ俺だけを見ている。
「ヴェスト……俺のこと、嫌いになったか?」
 謝罪の代わりに、小さくて頼りない手を俺の両手で包み、額に当てる。自ら尋ねたくせに肯定が返ってくるのが怖くて、目を閉じた。
 けれど返ってきたのは、覚悟した言葉ではなかった。
「どうして? 俺は兄さん、を……きらいになんか、ならない」
 目を開けると、あおい目はやはりまっすぐ俺を見つめていた。
 散々声を上げたせいで掠れたのどで、ヴェストは懸命に言葉を紡ぐ。難しい言葉をまだあまり知らない子供は、単純な言葉で俺の不安を、恐怖を否定した。
「少し……怖かった、けど。でも、兄さんがすきだから、平気だ」
 力が上手く入らないのであろう腕で体を起こし、ヴェストはふらふらしながら俺にぎゅっと抱きついてきた。子供特有の高い体温に触れ、俺は戸惑いながらもその体を受け止めて強く抱きしめた。細い。幼く頼りない、ちいさな体。
「にいさん……すき、だいすき」
 柔らかな肌が俺を包み、体の全てを俺に預けられる。俺はそれを抱きとめながら、もうあまり呂律の回っていない眠そうな子供をきつく抱きしめ名前を呼んだ。ヴェストは、うん、と返事をしながら夢のふちに沈んでいく。
 ぎゅう、と俺の服を掴んだ手のひらは開かれること無く、腫れたまぶたを閉じて子供は眠りについた。
 おまえを愛してる、という俺の言葉は、音になって伝わる前に喉の手前で潰れて消えた。その言葉を口にするよりも、今はこの愛しい弟を抱きしめていたかった。












end.























































+++
 ごめんなさい。(The★土下座)
 子供に無体をはたらくのがこんなに楽しいとは思いませんでした。





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