ボトル一本分の幸せ




 かぷ、と歯を立て、黄金色のメイプルシロップをたっぷり含んだそれに齧りつく。特有の甘い香りが漂い、舌を這わせて舐め取るとその濃厚な甘さが口の中と心を満たした。さすが、幸せになれるという謳い文句なだけはある。
 満足げに頷いて、さてもう一口、というところで、ヴェストから抗議の声が上がった。
「も、う……っは、あ、やめてくれ、にいさ……んッ」
「あー? なんだよヴェスト、本当にうまいんだぜコレ」
「わか、……ッひ、い゛ぅ…わかった、もう分かったから、ァっ!」
 とろりとメイプルシロップの滴るヴェストの腹をねっとりと舐めてやると、ごつごつと隆起した腹筋が引き攣った。びくんっ、と可愛い反応をする弟を笑いながら、メイプルシロップでべたつく指でヴェストの胸を撫でる。ぬちゃぬちゃと粘度の高い音を立てて屹立した乳首をこね回してやると、ヴェストの口から甘ったるい悲鳴が上がった。このメイプルシロップと、どっちが甘いかなー、なんて。
 黄金色を塗りたくったそこに噛み付いて、前歯で軽く引っ張った。びくびく体を跳ねさせるほどに感じて、ヴェストはつま先を白くしならせる。
「ひ、ィッ! あ、あ゛ァ……こ、こんな、だめだ…たべものなのに、ぃ……ッ!」
 生真面目な弟は、本来はこんなことに使うものではないメイプルシロップまみれにされて、しかも自分がそれに感じてしまっていることに酷く罪悪感を覚えているらしかった。しかし、普段以上にびくびくと震え、漏れ出る声もいつもより過激なように感じるのは気のせいだろうか。
 かっちりと真面目なツラをしていても、ど変態なヴェストのことだ。その罪悪感、背徳感が快楽に拍車をかけているんだろう。
 その証拠に、俺がメイプルシロップまみれの指を口元に近づけてやると、熱い吐息の漏れる口を素直に開き、まるで赤ん坊の吸てつ反応のようにちゅくちゅくと吸い付いてくる。
「んく、ッ、う……ぁ、んぅッ…」
「うまいだろ?」
「んふ、ァ……ぁん、ぅ、んぐっ……あ、ぅ」
「こーら。お兄様が聞いてんだ、返事は」
 夢中で俺の指をしゃぶるヴェストの口から強引に指を引き抜くと、名残惜しげに視線が俺の指先を追う。唇がひらき、舌が指を追うように少し伸ばされた。その舌先を、ぴんと弾く。
「ぃあ゛ッ!」
 ついでに、とろとろと体液を零している性器も亀頭を押しつぶすように抓ってやると、ヴェストは濁点のついた醜い声で呻いた。
 俺は確かに痛みを与えたはずなのに、ヴェストの立派なそれは萎えるどころか、脈打って解放を望んでいるようだった。
「っはは、笑っちまうよな。こんなムキムキでドSくさい顔した男が、メイプルシロップぬりたくられたりちんちん抓られたりしてイッちまいそうになるド変態だなんて」
「ひ、い゛ぅ……言うな、いやだぁ、ッ!」
「嫌じゃねーだろ。ほら、メイプルシロップ塗りたくられて気持ちよくなる変態ですって言ってみろよ」
 メイプルシロップのボトルを逆さまにして新たにヴェストの上に滴らせると、ヴェストはそれだけで泣き出しそうに顔を引き攣らせていた。
 楽しくなってきた俺は、新たにヴェストの腹に落ちた幸せになれる液体を指で掬って口に運ぶ。やっぱ甘くてうまい。
 もごもごと口を動かして泣きそうな顔を晒しているヴェストに、早く言えって、と促してやるとヴェストの喉がひくりと震える。マゾヒスティックな一面を持ち合わせるヴェストには、これでも甘いくらいだ。それこそ、メイプルシロップみたいに甘い。
「お、れは……俺は、兄さんにメイプルシロップ、を……ぬ、塗りたくられて、気持ちよく……ひう゛ッ、気持ちよくなって、ペニスをかたくしてしまう変態です……! ど、どうかもっと、気持ちよくして…くださ、い……」
 うわ、アレンジ加えてきやがった。
 恥ずかしい言葉に興奮したんだろう、真っ赤に染まった目尻からとうとう涙を零し、ヴェストはぱくぱくと酸欠の金魚みたいに俺を求めた。両手を伸ばし、おねがいだから、と懇願する。
 その手を取って、手の甲にキスをしてやると、ヴェストはうっとりとした目つきで少しだけ笑った。
「おあずけに決まってんだろ、かわいいヴェスト」
 言葉で求められたこととは真逆の答えを出してやると、ヴェストは絶望したように、もしくは歓喜したように喉を鳴らした。

 ヴェストに塗りたくった幸せのメイプルシロップをあらかた舐め終わり、俺は甘さに痺れた舌で唇を舐めた。もう、何が甘いのか自分でもよく分からない。
 ただひたすら俺に体中を舐め回されていたヴェストは、それだけなのに息を荒くしてとろけた目で俺を見つめてくる。
「俺だけなのも不公平だよな」
 俺の言葉がいまひとつ理解しきれなかったのか、ヴェストは疑問符を浮かべて兄さんと呼んでくる。それを無視し、俺は先ほどから散々使っているため中身が激減したメイプルシロップのボトルを手に取った。
 ボトルの口から溢れるメイプルシロップを、今度はヴェストではなく俺の体にとろりと滴らせる。俺の胸元から腹にかけてをゆっくり走るメイプルシロップを見つめ、ヴェストはどこかうっとりとした目つきで唇を舐めた。
「舐めろよ」
 俺の胸元に垂れるものを指してやると、ヴェストは驚くほど従順に首を縦に振った。理性のとろけた目が、吐息が、ひどく扇情的だった。
 仰向けに寝転がっていたヴェストはおずおずと体を起こし、ベッドの上に四つん這いになって俺に擦り寄ってくる。俺が硬い金髪にキスしてやると、ヴェストはそのまま俺の胸元に舌を伸ばしてきた。ぬるい舌がねっとりと肌を這う感覚に、背筋が震えた。
 最初は舐め取らず、舌の腹でメイプルシロップを俺の胸に塗り広げていく。そうした上で、ようやくメイプルシロップを舐めとりにかかる辺り、つくづくヴェストも変態だと思う。俺もだけど。
「ん、んふ……ぅ、んッ、ぁ……」
 ぺちゃぺちゃと、わざとなんじゃないかと思うくらい下品な音でメイプルシロップを啜るヴェストが熱い息を漏らす。俺の鎖骨の少し下から鳩尾にかけてを流れたメイプルシロップを舐めていくヴェストは、卑猥な愛玩動物のようにも見えた。
 ざらついた舌が何度も何度も肌の上を往復するくすぐったさと、奇妙な背徳に苛まれ、俺もヴェストもはあはあと息を荒げていく。
 ちゅく、とメイプルシロップを啜るついでなのか、ヴェストは俺の胸元にきつく吸い付いて赤い鬱血痕を残しやがった。ささやかな反撃なのか、それともただの独占欲なのか。どっちにしろ、俺を煽る要素でしかないことは確かだった。
「っう、あ……はあ、にいさん……」
 熱っぽい声で呼ばれ、俺もヴェスをと呼んでやる。想像以上に欲にまみれた己の声に、自分自身が一番びっくりした。
 互いの体中が互いの唾液にまみれ、べたべたになっている滑稽な姿で、俺たちはどろりとしたキスを交わす。甘い。けれどこの甘さが一体どこからくるものなのか、俺たちにはもう判別がつかなくなっていた。そこにあるのは、興奮と情欲と、どうしようもないほどの愛しさだけ。
 唾液と先走りでべちゃべちゃに濡れ、ふやけはじめている指をヴェストの中に捻じ込む。苦しげな声が聞こえたが、その中に黄金色の甘ったるい響きも含まれていたから構わないだろう。指先だけでヴェストの体内を好き勝手に蹂躙し、俺を飲み込むための場所を丹念にひろげていった。
「あ、あ゛ァッ、にいさ……兄さん、兄さんッ! っひ、い゛ぁ、もういれて、くれ」
「いいのか? たぶんまだ痛いと思うぜ」
「……痛いのが、いいんだ」
「ははははっ、そっか」
 ヴェストの脇腹を蹴り飛ばし、うつ伏せの状態にさせる。その広い背中に覆いかぶさるようにして体を密着させ、ぐっとヴェストの体内に熱を押し込んだ。ぎちぎちに俺を拒むそこが与えてくる痛みと快楽に、眉をしかめた。
「っ、キツいんだよ、緩めるとかしろよバカ」
「ひあ゛ァッ、あ、あ゛ーっ、ごめ、なさい……兄さん、ッ!」
 筋肉質の割に柔らかいヴェストの尻を手のひらで打ちつけてやると、ヴェストは背中をびくびくと反らせて快感を得ていた。痛みも罵声も快楽に変換する浅ましい体が、何よりも愛しい。
 何とか収めきって、ヴェストの体内を性急に刺激し始める。ごりごりと前立腺を擦り上げてやると、ヴェストは額をシーツに押し付けて声にならない声で喘いだ。
 それと同時に、先ほど叩いた尻を二度、三度と何度も叩いてやる。真っ赤に腫れ上がるまでひっぱたき続けてやると、ヴェストは引き攣った悲鳴じみた声で俺に懇願し始めた。いかせてくれ、もうだめなんだ、と泣いて懇願するヴェストの肩に、思いっきり噛み付いてやる。
「い゛ぁあ! あ、にいさん、兄さんッ! ひ、あう゛ッ、うぅ……いきた、い…お願いだから、兄さんっ!」
「っ、早い、っつの……遅漏はどこいったんだよ、っはは、変態め」
 がつがつと肉を打ちつけ、いくら乱暴に抉ってもヴェストは甘い悲鳴を上げる。いつかあの白い背中に真っ赤な蝋燭を垂らしてやったらどうなるだろう、といつも想像するのだが、実行には至っていない。結果はどうせ、目に見えているのだから。
「あ゛ぁーっ、にいさんっ、いく、おねがい……ッう゛ぁ、いかせ、てくれ」
「俺はまだいかねえんだよ。いきたい、なら……あ、っん、もっとケツ振って、やらしい言葉のひとつでも言ってみろ、っての」
 おにいさまぁ、ってお願いしてみろよ。冗談めかしてそう笑ってみせると、ヴェストはしばし黙り込んで下唇を噛み締めているようだった。その隙間から零れ落ちるくぐもった控えめな嬌声にも、ぞくぞくした。
 声が鮮明に聞こえ始め、やっと唇をひらいたのだろう。ヴェストはやや躊躇うようにシーツを噛み締めたあと、やけに甘ったるい声で俺を呼んだ。俺の要望どおりに。
「お、おにいさま……おにいさまぁっ! っあん、も、もっと俺のなか、ぐちゃぐちゃって、して……っは、あ゛ァ、甘い、めいぷるしろ、っぷ…かけられて、あっ、は、興奮する……い、いんらんな、へんたいに…ひい゛ッ、んく、おにいさまのザーメン注いで、……いかせて、くださいっ!」
 何度か舌をもつれさせながら、ヴェストは必死にいやらしい言葉を紡いでいく。
 シーツをぐしゃぐしゃに握り締め、腰を突き出して何とか俺から快楽を引き出そうとする。そのいじましい姿に、俺の腰も鈍く痺れた。こんなごつごつと筋肉をつけた男がシーツに縋りつきながら泣き喚いている姿を見て興奮するんだから、俺も相当な変態だ。
 俺の腹をヴェストの背中にべったりと密着させ、手を前に回す。ひくひくと震えて今にも弾けてしまいそうなものを左手で包み込む(つっても納まりきらねえけど)。
 その手を軽く上下させるだけで、ヴェストはひんひんと情けない声で泣き喚いた。
 がつがつと貪りながら、ヴェストの白いうなじに思いっきり噛み付く。歯形がくっきりとついて、血が少し滲んだ。にいさん、いたい、と小さく訴えてくるが、そんな甘ったるく鳴きながら言われても説得力なんてかけらもない。
「いあ゛ァ、っひ、いたい、兄さんッ……う゛っ、あ、にいさん…ぅぐ、ッ、いたい……っ」
「痛いのが好きなんだろ?」
「す、すき……好きだ、ッあ、いたッ……にいさ、んっ」
 首筋に何度も歯を立て、指の先でヴェストの性器をぎりぎりときつく抓っては先端に爪を立てて苛めてやる。後ろから攻め立てているためにヴェストの表情は見えないのが少し残念だった。
 空いている手をヴェストの口元にやるとべったりと唾液が俺の指を濡らす。正面から見たら、だらしなく口を開いてだらだらと涎を垂らし、恍惚とした表情で俺から快楽を貪り、涙腺が決壊したように流れる涙でべちゃべちゃになったヴェストの顔が見えるのだろう。見えないのが少し勿体ない気もした。今度は目の前に鏡を置いてやろう。俺からも見えるように固定して、上手くいけば悦楽でどろどろになっている自分自身の顔をヴェストに見せてやることが出来るかもしれない。
「っは、あ、あっ……ヴェスト…っ」
「や、ァっ……ひっん、んぐ、ぅ…あ、あッ兄さん……俺の、にいさん…っ!」
 俺の、だってさ。にいさん、すき、あいしてる、にいさんがすき、きもちいい。そんな言葉を、舌をもつれさせながら何度も何度も繰り返し紡ぐ。ひしゃげた言葉で、泣きながら俺に愛を与えてくる弟が、愛しくて仕方ない。
 肩や首に遠慮なく噛み付きながら、ヴェストをいじっている手を緩やかに動かしてやる。かと思えば不意にきつく抓るような動作を交えたり、睾丸を指先で乱暴に弾いたりして痛みも与えた。
 痛みにも快楽にも甘い声で応えるヴェストの汗ばんだ肌をべろりと舐め上げ、好きなようにヴェストを貪った。ヴェストも俺の好きにされるのが心地良いんだろう、兄さん兄さんと子供みたいに泣き喚きながら俺を求めた。
「ん、ッあ、あー……いく、いきそ…ヴェスト、っう、あ、ヴェスト……」
 緩やかな愛撫と痛みしか与えなかった箇所に、突如快楽だけを与え始める。手のひら全体で包み、ぐちゅぐちゅとわざと音を立てて扱いてやった。親指の腹で先端をくすぐるように撫でながら、ヴェストの一番すきなところをがつがつと突き上げた。
「ん゛ッあ、あ゛っ、ひい゛ぅッ! うぁ、あ゛、にいさっ、にいさん……!」
 ヴェストは引き攣れたような声になりきれない音を喉から絞り出してシーツにきつく額をこすりつけた。白くしなるつま先ががしがしとシーツを蹴って乱し、手は何かを求めるように白い海を彷徨っては力なくベッドに爪を立てる。
 俺も限界を迎え、容赦なく噛み付いたヴェストの肩の肉を食いちぎる勢いで強く歯を立てた。甘ったるく痛みを訴える悲痛な声がヴェストから迸るのを聞きながら、俺はびゅくびゅくとヴェストの中に白く濁った欲望を吐き出した。
「あ゛ぁーッ、でてる、にいさ……っ、俺のなか、兄さんが、ぁ……っ!」
 にいさんのざーめんがおれのはらのなかにいっぱいでてるぅっ、と呂律の怪しい口調でぼんやりと垂れ流し、ヴェストもがくがく震えながら俺の手を精液でべったりと汚した。
 白く汚れたヴェストの中からペニスを引き抜いてヴェストを呼んでやると、浅く短い呼吸を繰り返しながらその口が兄さんと呟く。途端、かくんっと脱力して、溢れた精液やら汗やらメイプルシロップやらでべたべたに汚れたベッドの上に倒れこんだ。
 乱れた金髪を撫でようと手を伸ばしたが、そういえば俺の利き手はヴェストの精液で汚れているのだと気付く。はた、と手を止めたが既に遅く、俺の手にべったりと付着していた精液がヴェストのうつろな表情を浮かべている顔にぽたりと垂れた。
 俺がそう教え込んだのだから当然だが、ヴェストは精液で汚れた俺の手を見るなりあまり力の入っていない手を伸ばし、俺の汚れた手を掴んで舌を伸ばしてきた。そのまま腕を引かれ、ヴェストは俺の手のひらに赤い舌をねっとりと絡ませてくる。
「ん、んく……にいさ、ん…きれいにするから……」
 ぴちゃぴちゃと自分の出した精液を真っ赤な舌で舐めとるヴェストは、さっきメイプルシロップを舐めたときみたいにとろけた表情で、うっとりと目を細めた。半透明の白い体液でべたべたに汚れた唇で、ヴェストは紡ぐ。
「兄さん、もっと……」
 もっと甘いのをくれ。
 そう呟くヴェストに、納まりかけた欲望の火種が再び燻り始める。メイプルシロップのボトルは、もうほとんど空っぽになっていた。








end.



































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 どうも「おにいさま」がブームのようです。
 俺様ブログを見た普独好きさんの大半の脳内を駆け巡ったと思しきめいぷるプレイ。超楽しかったです。
 ほんのりと男性向けっぽい雰囲気になったようなそうでないような。







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