いつだってわがまま





 だめ、と言われてしまえば、ドイツはもうプロイセンに逆らえない。
 それはもうずっと昔からだし、今もそうだ。
 ドイツは兄のプロイセンが好きで、好きで、大好きでたまらなくて、すぐ自分より少し小さく細いその体に触れたくなってしまう。欲張りな弟だった。一度触れてしまえば兄の全てを貪り尽くしたくなると分かっているから自制するものの、そんなちんけな自制心はすぐにほどけて落ちて消えてしまうのだ。兄に、触れられただけで。
「……にいさん」
「だめ」
「少し、だけ」
「だぁめ。……こら、ズボン下げようとすんな」
 革張りのソファーに悠然と腰掛けた兄の足元、冷たい床に直接尻をついて、ドイツはプロイセンを見上げた。軍帽の庇の影から赤みの強いむらさきが覗き、呆れたようにこちらを見下ろしている。同時に、今にも溜息をつきそうな唇が薄く開かれ、それを見つめただけで、ドイツの唇からは甘ったるい溜息が先にこぼれた。
 分厚い生地の上からプロイセンの太ももに頬をすり寄せ、その更に先に舌を伸ばそうとして、指先で、ぴんと舌をはじかれた。
「ん゛ッ、!」
「だめだって言っただろ」
 不機嫌そうに目を細められ、ドイツは慌ててそこから顔を離して兄に縋りついた。ごめんなさいおこらないでもうしないから。プライドも何も存在しないかのように、飼い主がいないと生きていくことさえできない愛玩動物のようにみっともなく縋る。
 その無様な懇願が気に入ったのか、プロイセンはくつくつと喉の奥で音を潰しながら笑った。
「そんなに欲しいのかよ」
「……ほしい」
「どうしても?」
「どうしても、だ」
「……じゃあ、いいぜ」
 あっさりと降りた許可に、ドイツは返事をする余裕もなく反射的にそこにむしゃぶりつこうと身を乗り出した。しかしその額を白い手袋に覆われた指が押し返し、再びぺたりと床に尻をつく。ドイツが無言のまま非難するような目で見上げれば、プロイセンは眉間に皺を寄せて唇だけを笑みの形に歪めた。
「がっつきすぎだっての、クソガキ」
「……いいと、言ったじゃないか」
「ああいいぜ。ただし、脱ぐなよ。襟元ひとつ乱すな、手袋さえ外すのは許可しねえ。……それでいいんなら、」
 プロイセンが言い終わる前に、ドイツが唾液を滴らせながらそこにむしゃぶりついたため、プロイセンの言葉は最後まで放たれることなく途切れたままとなった。


「ぁん、んむ…ッ、んく、ん、ん゛ぅー…っ」
 黒い軍服を着こみ、ぴったりと閉じた襟元に光る鉄十字。陽の光を反射して透明に光るはずの髪は、今は軍服と同じく真っ黒な軍帽に覆われてほとんど空気に触れていない。その軍帽の庇の下にあるあかい目は僅かに興奮に色づき、自分に必死に奉仕する弟の金色の髪を、つやつやした白い手袋越しに撫でていた。
 プロイセンの足の間に体をねじ込み、ズボンをずらし引きずり出したペニスをべろべろと無遠慮に舐めまわしながら、ドイツははあはあと獣じみた呼吸を繰り返していた。
 清廉で美しく、何よりも気高くあらねばならないはずの白い手袋を、今は自分の唾液とプロイセンのカウパー液とでべたべたに汚している倒錯感に、ドイツはめまいに似た何かを感じた。
「ん、んぅ、……っあ、にいひゃ、気持ちいい、か?」
 プロイセンと同じく、黒い軍服に身を包み、兄の命令通りその軍服を襟元ひとつ乱さず、兄と揃いの鉄十字を揺らしながら兄を見上げる。しかしくわえたまま見上げたのでは、兄がかぶっているものと同じ軍帽の庇が邪魔をしてあのおぞましいまでに美しい赤を見ることができず、ドイツはそこから渋々口を離した。離すと同時に先端をちゅうっと軽く吸い、また、ゆるく勃起したプロイセンのペニスに指を添え、ゆるくしごきながら顔ごと上に向けて兄を見た。
「にい、さ……にいさん、にいさん…」
「ん、……気持ちいいな、それ」
 つるりとした質感の手袋で覆われたままのドイツの手がプロイセンのペニスに巻き付き、体液を吸って徐々に色を変えるその布で擦る行為を指し、プロイセンは目を細めた。ん、と兄の喉が鳴る。
 快楽にひくりと震えた喉を凝視しながら、ドイツは手の中で脈打つプロイセンのペニスをゆるやかに上下させる。体液のしみ込んだ布越しに触れるペニスは温かさも何も感じず、ただ手のひらに伝わるもどかしい鼓動がドイツを興奮させた。
「兄さん、にいさん、…っは、ぁ、にいさぁん……」
 先端を舌の先でつついたり、舌全体で舐め上げたりしながら、ドイツは幹やくびれの部分を白い手袋に包まれた指でごしごしと擦り上げた。
 はふはふと荒い呼吸を繰り返し、手のひらや指の部分だけ濡れて色が変わっている布をまとった手の中にあるプロイセンのペニスを根元の袋から先端の穴までべろりと舐め上げ、かぷりとくわえてえずきそうになるほど喉の奥まで迎え入れた。じゅるぅっとわざと下品な音を立てて啜りながら自分の唾液にまみれたそれをまた手のひらと指でしごく。
 先端に指の腹を押し付け、色素の薄い陰毛を唇で食んだり、生え際を舐めたりしてペニス以外にも刺激を与える。くちゅくちゅと手を動かしながら、ドイツはペニスに頬ずりするように幹をぺろぺろと舐めて唇を徐々に下げていく。ぷくりとふくれた袋に舌を伸ばし、舌先で少しだけ持ち上げてゆっくり降ろして二つのふくらみの間を舌で撫でた。そのまま唾液をたっぷりと溜めた口に含み、舌で塗りこめるようにして舐め、ちゅぷん、と口から吐き出す。
 その間も白い手袋をはめたドイツの手はプロイセンのペニスを忙しなく擦っており、頭上から落ちてくるプロイセンの小さな喘ぎも段々と切羽詰まったものになりつつあることに、ドイツは僅かな優越感を抱いていた。
「ぁ、ん…んく、ぁむ…ん、ぅ゛ぅー…ッ! ぁふ、っく、んッ、ん…ぁ、あ、あ゛ぁー……」
「ッは、ぁ……ヴェスト、ヴェスト…」
「ん、にいひゃ…ぁっ、いき、そ? ざーめん、らひて……くれ、ぅ、のか?」
 血管を浮かせ、びくびく脈打つそれを愛しげに両手で包み、頬ずりするように幹を舐めながらドイツは期待に涙をにじませた。ペニスから口を離し、先程と同じように顔ごとプロイセンを見上げて懸命に手を動かしながら、体液に濡れた己の唇をぺろりと舐めた。その唇は、いつの間にか笑みの形に歪んでいる。
「にいさん、だして、ここ、俺の手にザーメンいっぱいだしてくれ。イッて、にいさん、にいさん……早くイッてくれ、兄さんのきもちいい顔が見たい、…ぁあ、はやく、にいさんが俺の手にきたないザーメンびゅくびゅく出すのが見たい……っ! 俺の手に出してくれ、兄さんのしろくてきたないの出して、てぶくろ汚して…っ、ぁう、にいさん、にいさんおねがい、はやく……ぅ、ッ!」
 はあはあと顔を真っ赤にしながら目を潤ませ、しきりに手を上下させたり先端を強く撫でたりして刺激しながら、ドイツは視線をプロイセンのあかい目から外そうとしない。犬のように舌を出して、はっ、はっ、と断続的に息を落とす。開いた口からはどろりと唾液が流れており、けれどドイツはそんなこと気にも留めずにただひたすらに兄を求めた。
「ぁ、あ……かわいい、にいさんすごくかわいい…ッ! イキそう、か? 俺の手、手袋つけたままの俺の手がきもちよくて、ここにザーメン出すのか? ぁあ、あ、あァ゛…っ、だして、イッてるときの顔、兄さんのかお、見たい……!」
「……ッ、調子乗ってんじゃ、ねえぞ……このクソガキ!」
 それまでドイツの自由にさせてきたプロイセンが、不意にドイツの髪を鷲掴みにして強制的に顔を反らせ、その顔に唾を吐きかけた。触れてもいないのにかたく膨れ上がらせているドイツの股間をプロイセンのブーツのつま先に踏みつけられ、ドイツは予想していなかった刺激に溜めていた涙をぼろりとこぼした。
「ぁ、ッぎ、ぁ゛ぁぁーッ! あ゛ッ、にいさ、や゛めっ、あ、ア゛ぁ、らめ、踏んじゃら゛めぇ゛ぇッ!!」
「うるせえよ、俺のことイカせてえんだろ? さっさと手コキしろよ。俺のしごいてるだけでちんこガチガチにしてる変態のくせに、なぁにが『らめぇ』だバーカ。ほら、大好きなお兄様に踏んでもらって嬉しいだろ?」
 ぐりぐりと踏みにじったり、がつがつと踏み潰したりしながら、プロイセンはひどく酷薄な笑みで弟をなじる。ドイツは痛みにぼたぼたと涙を落としながら、その唇はゆるやかに弧を描き、口の端からはどろりと涎が垂れていた。
「う゛ぁ゛ぁ゛ぁー……っ、あ゛ッ、いっ、いた、ぁ…っ、いぃ! いたい、にいひゃぁ゛ぁ…っん!」
「返事は!」
「ぃぎぁ゛ぁッ、ぁ、う、うれひ、ぃ゛っ……にいひゃ、に、踏んれ゛もら、って…っぐぁ、ァっ、うれひ、ぃれ゛す…ぅ゛ぅッ!」
「ハッ、そーかよ、そんなに嬉しいならもっと踏んでやるよ、ほら、……ほら!」
 ガツ、ぐりぐり、ガッ、と容赦なく足を振りおろし、勃起して涎をだらだらとこぼしているドイツのペニスを、分厚い生地の軍服の上から幾度となく踏みつける。
「お礼のひとつも言えねえのかよこの駄犬は! ほらこのきったねぇペニスを踏んでくれてありがとうございますって言えよ、なあヴェスト!」
「あ゛ぁー…ッ、あ゛ッ…ひ、ぃ゛ィぁ…あ、あり、がと……ぁ、ん゛ぅッ、ありが、と…ござい、ます……ぅ、ッ…お、おれの汚いペニス…ァん゛ぅ、ふ、踏んでくれ、へ……ぁ、ありがとぉ、ござい、ま、ふぅ゛ぅ…ッ!」
 プロイセンが一際強く踏み躙ると、普段は太く低い音を生み出すドイツの喉が引き攣り、びくびくと体を震わせてじわりと軍服を汚した。
「ぁ、ア…っ、あ゛ぁー……ッ」
「……おい、イキやがったのか?」
 ぐり、とプロイセンが踏んだそこは下着の中がぐっしょりと精液に濡れ、ドイツは射精直後の呆けたような表情のままただ荒く呼吸を繰り返しながらプロイセンをぼうっと見つめていた。
「チッ……オラ、手ぇ止まってんぞ、おまえがやりてえって言ったんだから、ちゃんとやれよ」
 短い舌打ちと同時に聞こえたプロイセンの不機嫌そうな声に、ドイツは快楽にのまれ朦朧とする頭でぼんやりと、けれど慌てて手を伸ばしてプロイセンのペニスを必死に擦り始めた。拙い手つきで施す手淫にプロイセンが快楽を感じ取ってくれているらしいということが嬉しくて、少しでも兄の射精を促そうと懸命に手を動かした。
「ぁ、あ゛ー……ッ、ヴェスト、いきそ…」
「っん゛ぅ……い、いって、だして、にいさん俺の手に兄さんのザーメンいっぱい出して、ぁ、あ゛ぁァッ!」
 叫ぶように懇願するドイツの手の中で、兄の性器がどくどくと脈打って手のひらにべちゃりと精液を放った。ドイツはそれを確認するとひどく嬉しそうにへらりと笑い、先端に唇をつけて強く吸い上げ、尿道に残った精液を飲み干した。
 そうして唇を離し、今度はプロイセンの精液がべっとりと付着した真っ白の手袋を己の口元に運ぶ。清廉で、汚れなく、気高いはずの白い手袋。そこに絡みつくどろりとした体液を、ドイツは嬉しそうに見つめた。鼻先に近づけ、鼻孔をひくひくと犬のように動かしてそれはそれは嬉しそうにそのにおいを嗅ぐ。
「ぁ、兄さんのざーめん、くさぁ…い」
 うっとりとそう呟き、何度か手のひらを握ったり開いたりしてにちゃにちゃとザーメンを手の上で遊ばせ、ゆっくりと口元へ。舌を伸ばし、表面を舐め取ってから唇をつけて、ぢゅぅっと啜りあげた。布の繊維にしみ込んだ体液まで搾り取るようにちゅうちゅうと吸い、ひどく幸せそうな顔でそれを味わって嚥下していた。
「ぉい、ひ……にいさんのざーめん、おいひ゛ぃ……」
 真っ白な手袋を白く汚した体液を余さず啜り取ろうと必死に己の手袋に唇をつけるドイツは滑稽で、プロイセンはくすくす笑いながら自分の足元にへたりこんでいるドイツの頭を、汚れていない白い手袋をはめた手でそっと撫でた。







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 竹林のドイツさんに滾った結果がこれだよ!!


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