鼻歌をうたって、いじわるしましょう
「ふんふーん、おれさまさーいこーう、さーいきょーう……」
上機嫌な声が聞こえる。
ドイツは己の口元に手のひらを押しつけながら、その声をどこか遠い世界のもののように聞いていた。耳に心地いい、聞きなれた歌声。普段より少しはしゃいだような、かすれた声が鼓膜を痺れさせた。
「ぁ、ぐぅ……ぁ、んふ、ぅ゛…ッ!」
手のひらで押さえた声は押し潰れ、きつく食いしばった歯が痛んだ。ふるふると首を振ってもドイツの訴えが兄に受け入れられることはなく、足の間にもぐり込んだ兄が鼻歌を歌いながら手のひらで擦り上げる場所から這いあがる快楽にドイツはじわりと涙を浮かべた。
「おまえらたーたーえーていーいぜー……」
「ぁ、ああ…ッ、にいさ、それ、それいやだ……ぁっ!」
つるりとした先端が、亀頭の先にある穴に押しあてられる。そこは体内の不要なものを吐き出す場所であり、同時に兄に優しく激しく擦られてみっともなく精液を吐き出す場所であった。そこに、ローションをべとべとにまとった細い細い棒がもぐりこもうとする。もう見慣れたそれは、細いコードの先のスイッチを押すと全体がぶるぶると震える仕組みになっており、幾度かこれで気を失うまで苛まれたことがあった。
先端に触れただけの状態で、カチ、とスイッチが入れられる。途端に震えだすそれが直接快楽を叩きこんできて、ドイツはそれだけで口を大きく開けて苦しげに喘いだ。
「っあ゛ぁぁぁーっ、や゛ァっ、あ、ぃぎ、いやだ……っにいさ、にいさん、いやだ、やだやだぁっ!」
先程は口を押さえていた手のひらは、今は短い髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜている。いやだ、いやだ、と拒否の言葉を吐き続けると、細い棒の振動はぴたりと止まった。ほんの数秒苛まれただけで荒くなった呼吸をぜえはあと繰り返しながら、ドイツはぼたぼたと勝手に落ちていた涙を手の甲で拭う。
「連戦ー、連勝ーガチだぜっ」
上機嫌に歌うプロイセンに呼びかけても返事は帰ってこず、ドイツははなを啜って何度もプロイセンを呼んだ。
「にいさ、もぉやだ……っ、それ、それしないで、くれ……! やだ、ほ、他の……なんでもする、から、それは嫌ぁ……ッ!」
ぐずぐずと涙声のまま、ドイツはプロイセンのやわらかな銀髪を掴む。ぐっと引っ張り兄の顔を上げさせると、そのあかい瞳は本当に楽しそうに、悪戯を企んでいるこどものような目だった。
「へーえ? コレ、嫌か?」
「や、……いや、だ…っ! こわい、それは嫌なんだ……」
「んー、じゃ、違うのにしてやるよ」
くすくすと楽しそうに笑い、プロイセンは手に握った細い棒をベッドの上に放り投げる。凶悪なまでの快楽を流し込んでくるおそろしい道具が自分から離れたことにドイツが安堵した直後、そのあおい目からは再び涙が流れだすことになる。
「ひ、ぃ゛ぁぁぁーッ! ッあ゛ぁ、あ、あ……っ!」
じゅぷっ、とねばついた音を立て、先程細い棒でゆるやかに拡げられた穴に、ずるりと安っぽい作りの小さな粒が捻じ込まれた。
大きさにばらつきのある透明なビーズが連なった、でこぼこした棒状の道具が、ドイツの尿道をぐりぐりと押し広げながら体内に侵入してくる。
「ァ゛ぁあ、あ゛ッ、あぁ……ッ! ひ、ぎぃ…ッ、いぁ゛、あ゛ぁぁぁーっ! にい、っさぁ゛っ、や、うそ、それしない、って……ぁ、あぁ、ぃ゛あ゛ぁ゛ぁぁー……ッ!」
引き攣り、呼吸も途切れがちの声で、ドイツは絶望したように兄を見下ろす。悲鳴に近い声を上げる唇も引き攣り、ほんの少し釣り上がって笑みのような形を作っていた。
「ん、だから尿道バイブはやめてビーズにしてやったろ?」
くつくつ、喉の奥で押しつぶしたような、意地の悪い笑い方でプロイセンは笑う。笑いながら、もう2、3個分、尿道にビーズを押し込んで本来ひらくべきではない場所の肉をひらいていった。そのたびにドイツは喉が張り裂けるのではないかと思えるほどの悲鳴を上げ、ぐるりと目を上向かせて喉を逸らしながら泣き喚いた。
「ひ、っぎぁ゛ぁ゛ぁーッ、あっう゛ぁぁ……ぁ、あっ、あ゛ッ、もぉら゛ぇ、おちんぽ、ぉ……おちんぽこわぇ゛ぅぅーっ! こ、こわれひゃ…ぁ゛ッ、おちんぽのなか、ぐりぐりさぇ゛、っぇ……っう゛ぁぁー、あ、あっ、あっ……」
舌を出して真夏のアスファルトの上の犬のように呼吸を荒げ、ただ大きく開けた口から声帯を震わせただけの音を落としながら、ドイツは自らの頭を抱えて白目を剥きながらひたすら体中を引き裂くような快楽を受け止め続けた。
精神を急速に蝕まれ、狂ったように悲鳴を上げる弟の声を聞きながら、プロイセンは再び上機嫌に鼻歌を歌い始める。お気に入りの装飾品を整理するような、おもちゃで遊ぶこどものような、楽しげなメロディーだった。
「おまえがのーぞーむーならー、なーでーてーやるー……ふふーん、」
ぐず、じゅぷっ、ずちゅぅっ。卑猥な水音を立てながら、ビーズの連なった紐がほとんどドイツの性器の中に埋め込まれた。がちがちにかたくなり、異常なまでに反りかえっているそこにプロイセンの手のひらが触れてゆるゆると撫で上げられた。
「あ゛ぁぁー……っぎ、ァ゛っ、にい゛ひゃ、に、ぃひゃぁ゛…んっ! もぉ、らめ、いぐ、いぐぅっ、」
「へえ、イけば?」
プロイセンは触れていた手を離して身を屈め、舌を伸ばして幹を下から上にかけてべろりと舐め上げた。横にくわえるようにして唇をべったりとつけ、じゅるじゅると吸いながら幹をしごくと、ドイツはいっそ苦痛を感じているのではないかと思えるほどに悲痛な声を迸らせる。
「っむ、むり、むりぃ゛ぃっ! にいさ、それぬいて、ぇ゛ッ! ら゛ひた、ぃ、おちんぽ、びゅうってザーメンぶちまけ、たい゛ぃ……!」
涙と鼻水でべちゃべちゃに汚れきった顔、涎をだらだらとこぼす呂律の回っていない口で、ドイツは必死に兄に懇願した。
プロイセンは少し考えるような仕草を見せてちらりと視線をドイツの涙にまみれて濁っている目に合わせ、無邪気にも見えるうつくしい笑みをドイツに向けた。
「ん、尿道にビーズ突っ込まれて気持ちよくなってる変態ちんこから、きったねえザーメンぶちまけて見せろよ。なあ、……俺の可愛い可愛いヴェスト」
プロイセンはドイツの先端から少しはみ出たビーズの連なりの先を指先でつまみ、ずりゅうっ、と勢いよく引き抜いた。
「っあ゛ぁぁぁーっ! あ、っが、ぁ…ッ、れ゛てぅ…出てぅ゛ぅ゛ーっ、おちんぽ、おれのきたな、っい゛ぃっ、汚いザーメン出てる゛ぅ゛ッ! あ゛ッ、あ゛ぁ゛ー……っ、っうぁぁ……、っは、はは、っはぁぁ…ァッ!」
朦朧とする頭でドイツは叫び、笑い声にも似た、放心したような声を垂れ流しながら、ビーズの引き抜かれた衝動に引きずられるようにしてびゅるびゅると精液を勢いよく飛ばした。
咄嗟に身を引いたにも関わらず、プロイセンの頬にまで精液が飛び散り、彼の白い頬が白く汚れてしまった。そのさまをドイツは呆けながら見つめ、ああ、や、うう、といった言語にならない喃語じみた声をこぼしていた。
プロイセンが親指で自分の頬に触れる。どろりと濃い精液を指で拭い、ドイツに見せつけるようにそれを口に迎え入れた。
再び頭の中をひっかきまわす程の愉悦を与えられることを期待して、ぞくりとドイツの背筋が震えた。
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映画前売り券つき兄さんの新曲、『Mein Gott!』に滾りすぎた心を落ち着けるために書きました。
尿道プレイが書きたかっただけです。